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やはり裁判所は権力の味方? 【氷見冤罪事件】でも国への賠償請求は棄却の「異常」

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県警の捜査で精神的苦痛を受け、PTSDに苦しんだという柳原さん(写真右)。弁護団は「一部勝訴と言える」としたものの、国への請求が棄却されたことから「判決文を精査したい」と話している。(写真は第1回口頭弁論後の記者会見の模様/Youtubeより)

 富山県氷見市で2002年に起きた2件の強姦・同未遂事件で、誤って犯人とされて服役した男性が、不当な捜査や取り調べがあったなどとして、国、富山県などに約1億400万円の損害賠償を求めた訴訟の判決で、富山地裁は警察の捜査に違法性があったとして、県に約1966万円を支払うよう命じた。県側は控訴しない方針。冤罪で再審無罪が確定した事件でも賠償が行われるのは珍しく、画期的な判決といえる。ただ、判決では国への請求は退けており、警察の捜査をチェックすべき検察に対して甘い判断となった。

●冤罪賠償の高いハードル

 この事件では、タクシー運転手だった柳原浩さんが逮捕され、警察や検察で自白調書が作成された。富山地裁高岡支部では、懲役3年の実刑判決が言い渡された。服役を終えた後の07年1月、別の事件で逮捕されていた真犯人が犯行を自白。それを裏付ける証拠もあり、この年の10月、柳原さんは再審で無罪となった。

 その後、国から支払われた刑事補償金は約1000万円。刑事補償は、捜査などの不当性を認定して賠償を行うものではなく、身柄拘束されていたことによる不利益や精神的な苦痛などに応じ、1日当たり1000~1万2500円と決まっている。

 一方、国家賠償訴訟では、冤罪被害を受けた側が捜査の違法性を明らかにする必要がある。このため、請求はなかなか認められない。郵便不正事件で冤罪の被害を受けた厚生労働省事務次官の村木厚子さんが起こした国賠訴訟では、検察官への証人尋問を回避したい国が、3770万円の賠償を払うことを認めて訴訟を終わらせたが、これは異例中の異例。警察による証拠捏造が明らかになって死刑確定から再審で無罪になった松山事件でさえ、国賠は認められなかった。そのため、冤罪被害者の斉藤幸夫さん(故人)は、死刑台からは生還したものの刑事補償金は裁判のための借金返済で消え、28年も拘束されていたために無年金状態に置かれ、生活保護を受けながら苦しい生活を送らなければならなかった。

 このように、賠償が認められるハードルの高いことに加え、裁判には長い時間や費用、エネルギーが必要なことから、多くの冤罪被害者は国賠請求をあきらめているのが現状だ。

 そんな中、果敢に国賠請求に挑んだ柳原さんに対し、判決は警察の捜査に「強い心理的圧迫を加える取り調べ」を行うなどの違法性があったことは認めた。現場の足跡痕が柳原さんの靴のサイズとは合わないなどの消極的な証拠もあり、柳原さんが具体的犯行状況を説明できずにいたのに、捜査員は「自分の意図する答えが被疑者から返ってくるまで、同じようなかたちの質問を続けて確認を求める手法」などで取り調べを続け、詳細な自白調書を作成した点が問題とされた。

●救われない冤罪被害者

 その一方で判決は、柳原さんが訴えていた「罵倒、恫喝、暴行、脅迫、偽計などの手段を用いて自白を強要した」という点は、認めなかった。

 暴行を受けた時の傷が残るなど、明らかな証拠がない限り、取り調べの状況を冤罪被害者が証明することは不可能に近い。捜査員が否定すれば、それが認定されないというのでは冤罪被害者は救われない。

 取り調べを録音・録画する「可視化」をしていれば、こうした問題は解決する。可視化は冤罪を防ぐためにも必要だが、いったん起きた冤罪の被害者を救済するためにも有効だ。現在、可視化の導入が検討されているのは、裁判員裁判対象事件など、ごく一部の事件に限定されていて、柳原さんが巻き込まれた強姦事件は対象にならない。全事件に広げていくべきだ。

 ビデオ録画には、それなりの設備が必要なので、すべての取調室に付けるまでには時間がかかるのはわかるが、実現するまでの間は音声の録音で補えばよい。全警察官にICレコーダーを配布し、取り調べや事情聴取の時には必ず録音を録るように義務づけてもらいたい。これは、警察の捜査に不当性がなかった場合、それを証明する手段にもなる。

 ところで、柳原さん事件の国賠の判決は、検察が警察で作られた調書を鵜呑みにして、その内容を確認するだけの取り調べをして調書を作成したことや、柳原さんの犯人性を弱める消極証拠を軽視して起訴したことなどについては違法性を認めなかった。