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江川紹子の「事件ウオッチ」第15回

検察と証人が“司法取引”で証言を捏造?【美濃加茂市長収賄事件】崩壊する当局の主張

文=江川紹子/ジャーナリスト
検察と証人が“司法取引”で証言を捏造?【美濃加茂市長収賄事件】崩壊する当局の主張の画像1現金の授受を否定している藤井市長(写真)の弁護側は、検察側証人である中林氏の証言の信用性を揺るがす重大な事実を突きつけた。

 藤井浩人・美濃加茂市長が収賄で起訴された事件は、贈賄業者の供述の信用性が最大の争点だ。検察は、30万円の賄賂を贈ったとする、贈賄側業者「水源」の中林正善社長の証言の信用性を補強するために懸命だが、弁護側は逆に中林証言の信用性を揺るがす事実も突きつけ、検察vs弁護側の攻防戦は激しさを増している。

●留置場で中林証人の隣房にいたA氏の重大証言

 中林社長は、昨年4月2日に美濃加茂市内のファミリーレストラン「ガスト美濃加茂店」で10万円、同月25日に名古屋市内の居酒屋「山家住吉店」で20万円を藤井市長(当時は市会議員)に渡した、と証言した。いずれも、共通の知人X氏が立ち会っているが、現金授受の場面は一貫して「見ていない」と明言。検察側は、X氏がトイレなどで席を外した隙に渡したと主張するが、X氏自身は中座したことを否定し、居酒屋のトイレの場所も知らなかったなどと証言した。

 他に、現金授受の目撃者はいない。現金授受を裏付ける直接証拠もない。検察側としては、中林証言だけが頼りだ。その信用性を高めようと、同社長の友人2人を裁判の証人に立てた。

 うち1人のY氏は、「水源」が美濃加茂市内の中学校に、実験的に設置した浄水プラントを見に行き、その際、中林社長から「渡すもん渡したから」と言われ、「藤井さんに現金を渡したと思った」と証言。だが、この時の会話で、藤井市長の名前が出たわけではない。

 もう1人のZ氏は、「藤井さんに恩を売っておきたい」と現金50万円の調達を中林社長から頼まれ、貸したと証言した。その後、「50万円はちゃんと渡した、ありがとう」と礼の電話があった、という。ただ、検察側の主張でも、この時に渡したのは20万円。中林社長はZ氏に嘘を言って金を引き出していたことになり、果たして藤井市長に金を渡した話も本当なのか、という疑問が浮かぶ。

 Z氏は、Y氏の紹介で中林社長と知り合い、多額の金を何度も貸していた。昨年秋の時点では、その総計は1億2000万円にも及ぶ。中林社長は、銀行など金融機関を相手に4億円もの融資詐欺をくり返していたが、だまし取った金はZ氏への返済などに充てていた。警察は、この詐欺事件で、当初Z氏を共犯者として自宅や自動車内を家宅捜索したが、その際には4000万円もの現金が押収されている。一般人とはかけ離れた金銭感覚には、いかがわしさも漂う。

 そんな中、警察の留置場で中林社長の隣の房にいたA氏の存在がにわかにクローズアップされている。同署の留置場では、夕食が済むと、在監者同士で比較的自由に会話ができ、関わった事件や取り調べでの苦労などを話し合うこともあった、という。私は、現在は名古屋拘置所に在監中のA氏に2度面会して話を聞いた。

江川紹子/ジャーナリスト

江川紹子/ジャーナリスト

東京都出身。神奈川新聞社会部記者を経て、フリーランスに。著書に『魂の虜囚 オウム事件はなぜ起きたか』『人を助ける仕事』『勇気ってなんだろう』ほか。『「歴史認識」とは何か - 対立の構図を超えて』(著者・大沼保昭)では聞き手を務めている。クラシック音楽への造詣も深い。


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