藤井浩人・美濃加茂市長が収賄で起訴された事件は、贈賄業者の供述の信用性が最大の争点だ。検察は、30万円の賄賂を贈ったとする、贈賄側業者「水源」の中林正善社長の証言の信用性を補強するために懸命だが、弁護側は逆に中林証言の信用性を揺るがす事実も突きつけ、検察vs弁護側の攻防戦は激しさを増している。
●留置場で中林証人の隣房にいたA氏の重大証言
中林社長は、昨年4月2日に美濃加茂市内のファミリーレストラン「ガスト美濃加茂店」で10万円、同月25日に名古屋市内の居酒屋「山家住吉店」で20万円を藤井市長(当時は市会議員)に渡した、と証言した。いずれも、共通の知人X氏が立ち会っているが、現金授受の場面は一貫して「見ていない」と明言。検察側は、X氏がトイレなどで席を外した隙に渡したと主張するが、X氏自身は中座したことを否定し、居酒屋のトイレの場所も知らなかったなどと証言した。
他に、現金授受の目撃者はいない。現金授受を裏付ける直接証拠もない。検察側としては、中林証言だけが頼りだ。その信用性を高めようと、同社長の友人2人を裁判の証人に立てた。
うち1人のY氏は、「水源」が美濃加茂市内の中学校に、実験的に設置した浄水プラントを見に行き、その際、中林社長から「渡すもん渡したから」と言われ、「藤井さんに現金を渡したと思った」と証言。だが、この時の会話で、藤井市長の名前が出たわけではない。
もう1人のZ氏は、「藤井さんに恩を売っておきたい」と現金50万円の調達を中林社長から頼まれ、貸したと証言した。その後、「50万円はちゃんと渡した、ありがとう」と礼の電話があった、という。ただ、検察側の主張でも、この時に渡したのは20万円。中林社長はZ氏に嘘を言って金を引き出していたことになり、果たして藤井市長に金を渡した話も本当なのか、という疑問が浮かぶ。
Z氏は、Y氏の紹介で中林社長と知り合い、多額の金を何度も貸していた。昨年秋の時点では、その総計は1億2000万円にも及ぶ。中林社長は、銀行など金融機関を相手に4億円もの融資詐欺をくり返していたが、だまし取った金はZ氏への返済などに充てていた。警察は、この詐欺事件で、当初Z氏を共犯者として自宅や自動車内を家宅捜索したが、その際には4000万円もの現金が押収されている。一般人とはかけ離れた金銭感覚には、いかがわしさも漂う。
そんな中、警察の留置場で中林社長の隣の房にいたA氏の存在がにわかにクローズアップされている。同署の留置場では、夕食が済むと、在監者同士で比較的自由に会話ができ、関わった事件や取り調べでの苦労などを話し合うこともあった、という。私は、現在は名古屋拘置所に在監中のA氏に2度面会して話を聞いた。