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清水和夫「21世紀の自動車大航海」(5月24日)

スゴすぎるぞトヨタのミライ!すべての面で卓越、この奇跡のクルマはいかに生まれた?

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トヨタ自動車「ミライ」
 昨年12月にトヨタ自動車が発売した、世界初の市販用量産型燃料電池車(FCV)「MIRAI(ミライ)」。その公道試乗会が行われた。実用化は程遠いと考えられてきたFCVだけに、「本当に水素だけで走るクルマが世に出るのか」と耳を疑った人もいるのではないだろうか。かくいう筆者も最初にミライを試乗した際に、実用化が近いと確信できる完成度の高さに驚かされた。電気自動車嫌いの筆者でも「欲しい」と思った理由を、試乗会で得た印象をもとに簡単にリポートしよう。

 FCVはスタックと呼ばれる装置で水素と酸素を化学的に反応させて発電し、その電気でモーターを回して走行する。仕組みとしては電気自動車(EV)の親戚といっていい。EVはバッテリーに貯めた電気で走り、FCVは水素で発電して走る。それだけの違いだ。ただし、FCVはEVと比べて圧倒的に航続距離が長く、充填時間(70MPaの高圧水素を充填した場合)も3分程度と、ガソリン車並みの性能を誇る。水素はエネルギーキャリアとして優秀なのだ。

 ミライの心臓部ともいうべき駆動部のうち、スタックはトヨタ独自開発によるもので、センターコンソールの床下に配置される。出力はスタック(発電装置)で155ps(仏馬力)、モーターで154psを絞りだす。モーターの最大トルクは335Nm(ニュートンメートル)となる。これは3.5リッターV6エンジンに匹敵する出力だ。これらパワートレーンの物理的なサイズはV6エンジンよりもやや大きいが、スタックとモーターなどを分散してパッケージできるので、新しい自動車の設計が可能となっている。

 また、駆動はフロントタイヤが担うが、内燃機関の前輪駆動車(FWD)と違うのは、前後重量配分がフロント58%、リヤ42%であるということ。通常のFWDでは6割を超えることがほとんどだから、ミライはバランスに優れているといえる。しかも低重心なので、安定性と乗り心地のバランスは非常に良かった。

 実は、FCVの基盤技術はトヨタのハイブリッドシステムである。交差点で止まると、アイドリングストップと同じようにスタックは発電を停止する。走り始めは「プリウス」と同じように、ニッケル水素の二次バッテリーに貯められた電気を使用し、スピードが上がってくると再びスタックが発電を始める。そう、ハイブリッドシステムが下敷きなので、制動エネルギーを回収する回生ブレーキもしっかり活用できるのだ。

 ミライは確かに大出力の駆動部を持つ。しかし高圧水素タンクは約5kgの水素を充填でき、水素1kgで100km以上も走行できるので航続距離の心配はない。先日水素ステーションを取材したが、水素の料金は1kg当たり約1000円である。高速道路での走行も得意だし、航続距離も長いので、走行中ストレスを感じることはない。内燃機関がない分、エンジン音がしないこともFCVの特徴だ。試乗用のコースではロードノイズが耳に残ったが、製品版では魅力をさらに高めるべく、遮音対策を進めていることだろう。

 もう一つ気になったのは、水素スタンドの探し方だ。しかし、そこはぬかりなかった。チームジャパンの取り組みの一環として、ナビアプリやスマホアプリで検索できるようになっていたのだ。これからの課題は、水素スタンドの整備だ。そのテーマについては、次回以降詳しく見ていきたい。
(文=清水和夫/モータージャーナリスト、日本自動車研究所客員研究員)