先月(8月)の世界同時株安と通貨市場の混乱は、以前から懸念されていた中国経済リスクが今そこにある現実の問題であることをはっきりと裏付けた。世界の市場は小康状態を取り戻しているものの、当の中国は打開の決め手を欠く。この危機を乗り切るために、世界は強力な枠組みを必要としているのだ。
そこで注目されるのが、4日から2日間の日程で、トルコの首都アンカラで開かれるG20財務相・中央銀行総裁会議である。この会議には、月央の利上げ判断が注目されるジャネット・イエレン米FRB(連邦準備理事会)議長や、ギリシア危機対応のキーパーソンの一人マリオ・ドラギECB(欧州中央銀行)総裁、そして「異次元の金融緩和」を掲げる黒田東彦日本銀行総裁ら、G7の主要メンバーが出席する。
世界的な経済危機対応の経験がさほど多くないG20を、リーマンショックやギリシア危機、日本のバブル崩壊などの収拾経験を持つG7がリードできるかが会合の成否のカギを握るが、はたしてG7側にその覚悟があるだろうか。
試金石となる「アンカラ会議」
輸出の大幅な落ち込みと予想外の人民元切り下げ、上海株の度重なる急落などに端を発した中国発の世界同時株安は、日本でも日経平均株価が2800円以上も下げる歴史的な暴落の要因のひとつになった。
これに対して、当の中国も責任を痛感したのだろう。李克強首相は、8月28日の国務院の会議で、「金融の安定は経済全般に関わる。地域リスク、システミックリスクを発生させないという最低ラインを守る」と強調したという。現状についても「(中国の)経済運営は新たな圧力にぶつかっている」と率直に認めたとされる。世界が中国経済の実態に疑心暗鬼になっている時だけに、そうした姿勢は評価してよい。
しかし、具体的な処方箋となると、決め手を欠く。さらなる人民元安を招いて資本の流出を加速しかねない金融緩和や、過剰設備問題の引き金になったインフラ投資を一段と積極化するなど、いずれも中国が抱える矛盾を増幅するような施策しか、李首相は打ち出せなかったという。
中国発の世界同時株安を、世界同時不況や世界的経済危機に発展させるリスクが最も高いのは、中国からの資本の逃避だ。資本逃避の懸念から、世界的な危機に発展した前例としては、1997年7月にタイ発で始まった「アジア通貨危機」が記憶に新しい。今の中国は、経済の低迷をきっかけに世界的な貿易縮小を招くリスクも抱えているが、資本の逃避はそれより短期間で危機を増幅させる。