その兆候はすでに見えている。貿易黒字にもかかわらず、中国の外貨準備高が大きく減少し始めているのだ。今年7月末の外貨準備高は3兆6500億ドルと、昨年12月末に比べてわずか7カ月で1900億ドルも減少した。一方、同じ時期の中国の貿易黒字は3060億ドルで、この半分の規模の経常黒字があったとすると、中国の外貨準備は1500億ドル強増えていなければならない計算だ。1900億ドルの減少は異常事態といわざるを得ない。
原因として考えられるのは、統計そのものが出鱈目なのか、それとも巨額損失の穴埋めに流用したか。いずれにせよ、なんらかの不都合が生じているのは明らかだ。資本は、こうしたリスクに敏感だ。放置すれば、株安だけでなく、実体経済を大きく揺るがす危機に発展しかねない。
そこで期待されるのが、急激な資本移動に対する国際的な資金融通の枠組みの強化だ。アジア危機以来、各国は金を備蓄し自国通貨の信認を高める努力をしてきたし、国際的な資金融通の枠組み整備にも努めてきた。しかし、中国は世界第2の経済規模を持つ。既存の枠組みは、資本流出の危機が現実化すれば、十分とはいえない。アンカラで開かれるG20財務相・中央銀行総裁会議は、そうした中国危機のシナリオに対して、世界が十分な協調姿勢を持っているかを試す試金石になるだろう。
FRBの裏切り
とはいえG7、特に米国に、その覚悟ができているのかどうかは疑問だ。なぜならば、中国の資本流出を加速する懸念のある利上げについて、FRBが依然として今月16、17の両日に開く連邦公開市場委員会(FOMC)で強行する権利を留保しているからだ。
8月29日に閉幕したカンザスシティ連銀主催の経済シンポジウムは、そのことを明確にした。市場は、世界同時株安の勃発で利上げが遠のいたとの観測を強めており、FRB幹部がそうしたニュアンスの発言をするのを期待していたが、当のFRBはその期待を裏切ったのだ。
そもそも肝心のイエレン議長は会議を欠席した。そして、代わりに出席したナンバー2のフィッシャー副議長は、会議初日の28日に「まだ結論を出していないし、今出すべきでもない」と利上げの権利を留保した。翌29日の講演でも「中国経済の動向と他国経済への影響をいつも以上に注視している」「FRBが金融引き締めに動けば、他国経済に影響を及ぼすのは十分に認識している」としつつも、「(米国の)金融政策の正常化を慎重に進める必要がある」と譲らなかったのだ。