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筈井利人「一刀両断エコノミクス」

「ベーシックインカム=小さな政府を実現」の虚妄…現実的にデタラメだと証明

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「Thinkstock」より
 本連載前回記事で、「ベーシックインカムが貧困層を救う」という考えは誤りであることを指摘した。ベーシックインカムとは、就労や資産の有無にかかわらず、すべての国民に対して生活に最低限必要な収入を現金で給付する社会政策のことだが、この利点として流布されている誤った主張はこれだけではない。


 それは、ベーシックインカムが政府の規模・権限を小さくして「小さな政府」につながる、という主張である。

 これは、ベーシックインカムの原型である「負の所得税」を提唱した米国の経済学者、ミルトン・フリードマンが強調した点でもある。負の所得税とは、一定の収入のない人々は政府に税金を納めず、逆に政府から給付金を受け取るという仕組みである。一定の収入を政府が給付金によって保証するわけで、ベーシックインカムと実質同じといえる。

 小さな政府を目指す「新自由主義」の代表的経済学者とされるフリードマンは、1962年に出版した著書『資本主義と自由』(邦訳書は村井章子訳)で、既存の社会保障を負の所得税による最低限の収入保障に置き換えることで、コストが「半分で済む」と推計した。また、社会保障を負の所得税に一本化することにより、「煩雑な行政事務が大幅に簡素化される」とも述べた。

 ベーシックインカムが、貧困対策を求める左派勢力だけでなく、小規模で効率的な政府をよしとするエコノミストなどにも受けがいいのは、フリードマンのこれらの主張の影響が大きい。

 しかし、ベーシックインカムが小さな政府につながるという考えは、本当に正しいのだろうか。

米国の現実


 じつはその答えは、事実上すでに明らかになっている。フリードマンが提案した負の所得税は、そのままのかたちでは実現しなかったものの、そのアイデアを元にした制度が米国で75年に導入された。給付付き勤労所得税額控除(EITC)である。

 この制度は、働いて得た所得にかかる税額から一定額を控除し、控除額が所得税額を上回る場合に超過分を支給するもの。一定額を上限として所得を実質保障することになる。米国に続き、英国、カナダ、オーストラリアなどでも採用されている。

 フリードマンが著書で例に挙げた保障額が年最大300ドルだったのに対し、米国の勤労所得税額控除は導入当初に最大400ドルと定められた。その後、保障額はたびたび引き上げられる。77年に500ドル、84年に550ドル、90年に953ドル、93年に1511ドル、そして95年には一気に3110ドルに……という具合である。