コンビニのおでんとビール、なぜ少しずつ陳列変更?コカ・コーラとエルメスは真逆戦略?
「日本企業には優れた技術があるが、マーケティングのノウハウがないために海外企業に負けてしまう」という解説がよく聞かれ、書店にはマーケティングに関する書籍があふれている。また、マーケティングと聞くと華やかな職種というイメージも強く、就職活動中の学生の間にも志望する向きが多いようだ。
本連載ではこれまで、顧客のニーズに合った商品のつくり方やそのポジショニングなど、販売の「前段階」について紹介してきた。今回は生み出した商品の「売り方」について、立教大学経営学部教授の有馬賢治氏に解説してもらった。
マーケティングの基礎である“4Ps”とは?
――誰に販売すればいいのかを特定する方法を前回までに学びました。
「ターゲットとその立ち位置が決まったら、次は販売方法の検討が企業の課題になります。たとえば、どんなに美味しいお菓子ができたとしても、一般向けに広告を打たなければその美味しさを伝えられる範囲は限定的となってしまいます。マーケティングでは効果的な販売をするためには、4つのP(Product:商品、Price:価格、Place:流通、Promotion:広告)をいかにうまく組み合わせるのかが重要だと考えています」
――その4つのPにはそれぞれどのような要素があるのでしょうか。
「Productは『品質』『品揃え』だけでなく、アフターサービスや不要家電の引き取りといった『付帯サービス』など。Priceは『値引き』のほか『ポイント還元』や『クレジット利用』も含まれます。Placeは『販売場所』『店内陳列』といったものを指します。PromotionはテレビCM、新聞、雑誌、インターネットや屋外広告などの情報発信に加えて、イベントやボトルネックに付いた『景品』なども含まれますね」(同)
――これらの手段を組み合わせて販売していくわけですね。
「そうですね。コカ・コーラは、手頃な値段で、色々な大きさの容器で販売されていて、目的に合わせて消費者は容量を選ぶことができ、自販機やスーパー、コンビニとどこででも手軽に買えるような販路の確保をしています。さらに、テレビCMやWEB広告で“爽やかなイメージ”を演出するという組み合わせで、多くの人に親しまれるように工夫しています。一方、高級ブランドであるエルメスは、基本的には全世界で定価販売しか行わず、専門店で販売し、広告は紙媒体やポスターを中心にして、ブランドイメージの維持を優先した販売方法を展開しています」(同)
“ミックス”ではなく“ブレンド”
――確かに、車で考えても、ファミリータイプや軽自動車などはCMに家族を登場させて人物にフォーカスが当たっていると思いますが、レクサスなどの高級車になると車自体がフィーチャーされている印象です。
「そうですね。自動車の例でも分かりますが、『広告』に限らず売りたい商品の属性や特徴によって、各手段のどの売り方が最適なのかを検討して組み合わせようと企業は努力しています。これを専門用語で『マーケティング・ミックス』と呼んでいますが、“ミックス”だとややアバウトに“混ぜている”というニュアンスがあるように私は感じています。企業が環境に応じて適宜最適に“調合している”といった意味合いを反映するならば、個人的には『マーケティング・ブレンド』と言ったほうがより適切ではないかと思います」(同)
――このマーケティング・ブレンドですが、一度調合の仕方を決めたら変更はしなくていいのでしょうか?
「いいえ、競合商品の出現や流行、経済状況によって市場というのは常に変化します。それに柔軟に対応するためには、このブレンドも少しずつ変えていく必要があります。コンビニで、気温に合わせてビールやおでんの配置を変えていることなどがわかりやすい例ですね。ひとつの販売方法に固執すると、競争に対応できなくなってしまう危険があることを売り手は常に頭に入れておかなければいけません。今回のポイントである“ものを売る基本”とは、この“ブレンド”と、市場変化に対応する“柔軟な姿勢”の2つであるといっていいでしょう。これらを意識しないと、マーケティングは実質的に機能しません。いい商品をつくるだけでも、大々的な広告を打つだけでも十分とはいえません。その商品の価値に合った最適な組み合わせを意識した継続的な販売努力が、企画成功の上では欠かせませんね」(同)
企業のマーケティングでは、販売方法の工夫と日々の環境対応が求められているようだ。
(解説=有馬賢治/立教大学経営学部教授、構成=A4studio)