日本郵政の西室泰三社長が今春にも退任する見通しとなった。2月8日から検査入院中で退院の見込みは立っていない。社長職は鈴木康雄上級副社長が代行している。
西室氏は、東京芝浦電気(現東芝)や東京証券取引所の社長などを歴任し、2013年6月に日本郵政の社長に就任した。15年11月に日本郵政と傘下のゆうちょ銀行、かんぽ生命保険の同時上場を果たした際、「17年6月の株主総会まで社長を続ける」との考えを示していた。
一方で、今年に入って首相官邸や経済界からは“古巣”東芝の粉飾決算問題の経営責任を問う声が上がっていた。また、西室氏の健康を不安視する声もあった。
1月28日の会見で、全国地方銀行協会の会長行を「常陽銀行」と言い間違える一幕があった。会長行は常陽銀行(寺門一義頭取)から横浜銀行に代わり、大蔵省(現財務省)OBで元国税庁長官の寺澤辰麿頭取が地銀協の会長を務めている。
寺澤氏は地銀協の会長になるまでは、ゆうちょ銀行の預け入れ限度額の引き上げに断固反対の急先鋒だった。それが西室氏の頭にこびりついていたのだろう。「横浜銀行が頭から消えて、常陽銀行と言ってしまった」と、会見後に事務方は釈明したという。
日本銀行が導入したマイナス金利によって、西室氏が描いた日本郵政グループの成長シナリオが崩壊してしまったのは間違いない。
ポスト西室が誰になるのか、さまざまに取り沙汰されている。日本郵政の指名委員会は委員長が新日鐵住金相談役名誉会長の三村明夫氏、委員は西室氏のほか、キヤノン会長兼社長CEOの御手洗冨士夫氏、東京海上日動火災保険相談役の石原邦夫氏、現在上級副社長を務める元総務省事務次官の鈴木康雄氏の5人である。
後任候補には民間の企業経営者を起用する案が浮上しているが、引き受け手がおらず難航が予想される。大株主である政府が最終判断するが、内部昇格する案も残っている。
旧郵政省出身の候補は2人
内部昇格する場合に有力視されているのが鈴木氏だ。同氏は郵政省(現総務省)の出身だ。05年の郵政民営化法成立以来、旧郵政省を母体とする日本郵政グループは政争の舞台となった。
鈴木氏は09年7月に総務事務次官に昇格したが、民主党政権時代の原口一博総務相によって就任から半年で解任された。
政権に復帰した自民党は民主党政権時代の日本郵政の役員を一掃。13年6月、社長に西室氏、副社長に鈴木氏を起用した。鈴木氏は菅義偉官房長官が第1次安倍晋三内閣で総務大臣を務めた時の審議官だったこともあって、官邸と太いパイプがある。