コンビニエンスストアやスーパーマーケットの定番商品として、人気を集めている豆乳。黄緑色の紙パックに入った「紀文の豆乳」は、誰もが一度は目にしたことがある商品だろう。
しかし、今一度、よく見てみてほしい。おなじみの「太陽と鳥」のイラストは健在だが、現在は「紀文」のロゴはどこにも入っていないのだ。
「紀文」ブランドの豆乳を販売していた紀文フードケミファは、2008年にキッコーマンの完全子会社となり、現在は製造をキッコーマンソイフーズ、販売をキッコーマン飲料が担っている。
11年からパッケージに「kikkoman」の文字が追加され、15年8月には「紀文」のマークが消えた。つまり、黄緑色のパッケージの豆乳は、今や「紀文」ではなく「キッコーマン」の商品なのだ。
さらに言えば、「豆乳=黄緑色のパッケージ」というのも一昔前の常識だ。売り場では、黄緑色の「調製豆乳」のほかに赤、茶色、ピンクなど、カラフルなデザインに包まれた、さまざまな味の豆乳が並んでいる。
コーラ、甘酒、焼きいも……味は40種類以上
キッコーマンが販売している豆乳飲料のバリエーションは、実に40種類以上。「麦芽コーヒー」「紅茶」などの飲料系から、「バナナ」「いちご」といったフルーツ系、和テイストの「甘酒」「おしるこ」「焼きいも」(いずれも季節限定)「しょうが」……さらには「無炭酸」と但し書きされた「健康コーラ」「ジンジャーエール」まで、想像できない味も多数ある。
いつの間に、こんなに種類が増えたのだろうか。キッコーマンソイフーズの開発担当者に聞いた。
「06年頃に大豆のにおいをコントロールする技術を開発したため、豆乳飲料でも、さまざまな味をつくることができるようになりました。特にフルーツ素材と豆乳の組み合せは、大豆特有のにおいを調整することで、初めて実現したものです」
キッコーマンの豆乳の中で特に種類が多いのが、フルーツ系だ。現在は14種類あり、全体の約3分の1を占めている。実際に「バナナ」を飲んでみると、「喫茶店のバナナジュースです」と言われてもわからないほど、“豆乳臭さ”は感じられない。
さらに驚いたのが、「いちご」である。従来の豆乳のイメージから、いちご牛乳のような味を想像していたが、フルーティで甘酸っぱく、まるでいちごをギュッと搾ったジュースのような味に仕上がっている。
コエンザイムQ10も? 短命に終わった「幻の味」
フルーツ系以外の味も、再現度はかなりのものだ。例えば「甘酒」は、酒粕独特の風味が鼻から抜けるように漂い、どう味わっても甘酒としかいえないほどの完成度である。
しかし、なぜ、こんな奇抜な味の豆乳を開発することになったのだろうか。
「奇をてらうといった意図はまったくなく、世の中にある食品や飲料の嗜好を捉えて企画・開発しています。ただ、ひとつの商品ですべてのお客様に満足してもらうのは難しく、商品ごとにターゲットやシーンを想定しながら開発しているため、自然とバリエーションが増えていきました」(キッコーマンソイフーズの開発担当者)
これだけ多くの味をリリースしていれば、中には外してしまったケースもあるのではないだろうか。
「意気込んで発売したものの、間もなく終売となった商品もたくさんあります。例えば『コエンザイムQ10』は、美容に良い成分を配合してグレープフルーツ風味にしたのですが、化粧品のようにとらえられてしまい、結果的にあまり売れませんでした」(同)
このように短命に終わるほか、もともと季節限定の商品もあるため、気になった時に買っておかないと、二度と味わえない豆乳も多い。そこまでして、新たな味を求めるのは、なぜなのだろうか。
「やはり、豆乳に苦手意識を持っている人に手に取ってもらいたい、というのが一番の目的ですね。飲んでいただいてから『あ、これ豆乳だったんだ』というくらい、日常生活に浸透させていきたいです」(同)
「とにかく、豆乳を飲んでもらいたい」という、キッコーマンのひたむきな情熱が、今日も斬新な味の豆乳を生み出している。
(文=鉾木雄哉/清談社)