東芝と富士通のパソコン事業と、ソニーから独立したVAIO(バイオ、長野県安曇野市)の統合計画が白紙に戻った。パソコン市場の伸び悩みという根本的な問題があり、統合後の成長戦略が描けなかった。各社はパソコン事業をどうするかの練り直しを迫られることになる。
2015年12月に明らかになった統合構想では、VAIOの親会社である投資ファンド、日本産業パートナーズ(JIP)を中心に、東芝、富士通も出資する持ち株会社の下に3社の事業会社を置き、ブランドは維持する方向だった。統合すれば国内シェアは3割強となり、NECレノボを抜いて首位になるとしていた。
だが、世界市場では中国レノボ・グループ、米HP、米デルの3社が計50%強のシェアを占める。日本メーカーは上位5社にさえ入らない。3社がまとまることによって規模のメリットを生かす。これが統合の謳い文句だった。
しかしその実態は、東芝を救済するために捻り出された策だったため、当初から3社は同床異夢であり、統合は困難とみられていた。利益を水増しした粉飾決算が発覚した東芝は不採算事業のリストラの一環として、パソコン事業の切り離しを検討してきた。東芝のパソコン事業は、15年3月期には1100万台を出荷していたが276億円の営業赤字。昨年末にパソコンの出荷を17年3月期に300万台に絞り込むことを決めた。今年4月には同事業を本体から分離した。
富士通も同様だ。15年10月に発表した経営計画でITサービス事業に注力する方針を打ち出した。非中核と位置付けたパソコン事業は今年2月に分社。携帯電話事業などを合わせた部門の業績が16年3月期には100億円の営業赤字になると予想されたからだ。
端的にいえば、東芝と富士通は赤字のパソコン事業をVAIOの親会社であるJIPに押しつけて、連結決算から切り離すことを狙ったのである。
JIPは統合後の成長戦略を検討したが、生産台数の伸びが期待できず、部品の共通化などによるコスト削減効果も十分に得られないと判断した。持ち寄る資産をめぐる交渉も難航した。東芝と富士通は、それぞれがパソコンの生産拠点を持っている。新会社に工場を移せば、JIPは資産を持つリスクが増大する。
総合的に判断してJIPに統合のメリットなしとなった。そこでJIPは交渉からの離脱の意向を示し、これで交渉は行き詰まった。JIPにパソコン事業のリスクを押しつけたい東芝、富士通と、いいとこ取りをしたい思惑のJIPの統合交渉は、空中分解した。