フランス南東部の標高1000メートル近い山中に、修道院がある。
ラ・グランド・シャルトルーズ修道院だ。
ここでは、30人近い男性修道士たちが門を閉ざし、900年前の創立時とほぼ同じの厳しい修行生活を送っている。
この修道院の特徴は、個室を設け、1日の大半を祈りに捧げていることだ。
彼らは、いったいどんな生活を送っているのだろうか。
『沈黙すればするほど人は豊かになる』(杉崎泰一郎著、幻冬舎刊)では、グレーニング監督の『大いなる沈黙へ―グランド・シャルトルーズ修道院―』という記録映画の映像、ディスマ修道院長の言葉、出版されている修道院規則などの史料を手引きして、著者の杉崎泰一郎氏のラ・グランド・シャルトルーズ修道院参詣の体験を交えながら、その知られざる世界を紹介する。
■沈黙の中での生活とは一体どんなものか?
本書を読んでいくと、驚きの連続が待っている。
ここでの生活は「沈黙」がほとんどだ。
それぞれの修道士は居間、寝台、作業場を備えた個室を割り当てられ、1日の大半を孤独のうちに祈り、手作業、読書のうちにすごし、平日は室内で自ら調理して独りで食事をとる。一方で、朝と晩の2回は聖堂に集まって全員で祈り、日曜や祝祭日には食事をみなでとり、集会を開くなど、共同生活も行う。
修道士たちの間で会話が交わされるのは、原則として日曜祝祭日の集会と散策の時間のみ。食堂に集まる食事でも、聖歌を唱える以外は朗読を聞きながら沈黙のうちに粛々と食事を進めるというのだ。
毎年40人から50人の応募者があり、その多くは修道士や聖職者だという。学歴はさまざまで、フランスで最高レベルの高等教育を受けた人もいれば、ぎりぎり中等教育修了の人もいる。
実際に修道院が受け入れるのはそのうち10人程度で、最初から個室での生活を営み、2年が過ぎてやっと仮誓願を行うことができる。仮誓願から5年たって正式の誓願が許され、一人前の修道士として迎えられる。受け入れられた人のうち、ここまで残るのは半数だという。
■何も持たずに心豊かな生活を送る
また、世間の情報を一切遮断しているわけではないようだ。修道士のラジオやテレビの試聴や携帯電話使用は禁止されているが、電子環境は責任者が判断した範囲で許可している。世間のニュースについては、まとめて日曜日の午後2時から3時半の休息時間に修道士に伝えている。
修道士たちが送る清貧の生活とは、実は豊かな生活で「我唯足るを知る」の考えのように、日々の生活に不足を感じない。何も持たないことによって、心豊かな生活を送っているということだ。
写真ですらほとんど公開されなかったラ・グランド・シャルトルーズ修道院の内部と修道士たちの生活を初めて外部に披露したのが、2005年にヨーロッパで公開された『大いなる沈黙へ―グランド・シャルトルーズ修道院―』という記録映画だった。
修道院にはさまざまな形があり、その中でもラ・グランド・シャルトルーズ修道院は昔ながらの厳しい生活を守っている貴重な修道院だ。人生に本当に必要なものは何なのか。修道士たちの清貧の生活から見えてくるのかもしれない。
(新刊JP編集部)
※本記事は、「新刊JP」より提供されたものです。