韓国・サムスン電子が製造・販売するスマートフォン「ギャラクシーノート7」の爆発が相次ぎ、使用停止勧告を行う国が増えている。そして、サムスン自身が世界各国の消費者に対して、使用しないように呼びかけ始めた。
サムスン電子は9月10日、インターネットニュースや自社HP上で「ギャラクシーノート7利用者は、可能な限り迅速に機器の電源を切り、新製品に交換してください」との声明を発表した。
また、各国の航空会社で、ギャラクシーノート7を飛行機内で利用禁止とする動きが拡大している。
サムスンがリコールを発表した後でも、バッテリーが爆発する事故は発生している模様で、インターネット上にギャラクシーノート7が燃える様子を映した動画が投稿されるなど、騒動は鎮静化する兆しが見えない。
サムスン電子がギャラクシーノート7を発売した国は、韓国、米国、カナダ、台湾、メキシコ、プエルトリコ、オーストラリア、ニュージーランド、シンガポール、アラブ首長国連邦などで、日本では未発売だ。
ギャラクシーノート7は、今年8月に発表されて同月下旬から各国で順次発売されたが、9月に入ってバッテリーの不具合から発火や爆発が相次いで報告された。
それを受けて、米国連邦航空局(FAA)と米国消費者製品安全委員会(CPSC)がギャラクシーノート7の使用中止を勧告した。その後、各国に規制する動きが広まったが、韓国国土交通部は「ギャラクシーノート7の機内への持ち込みや充電禁止、電源オフなどの措置を取る予定はない」と発表した。
これは、サムスンのライバルである米アップルが9月上旬に新型iPhoneを発表することを見据え、ギャラクシーノート7にマイナスイメージを与えないよう配慮したものとみられる。実際に、国土交通部の関係者も「産業的な側面を一部考慮した」と話す。
だが、事故が続いたため、サムスン自身も即座に使用を中止し、早急に製品を交換するよう呼びかけるに至った。米国消費者製品安全委員会は「電源を切り、製品から離れるように」と勧告を出すほどで、まるで爆弾のように警鐘を鳴らしている。
問題のバッテリーは、サムスンの系列であるサムスンSDIが製造・提供していたが、事件を受けてサムスンは中国のATLに供給を頼っている。ATLはアップルのiPhoneシリーズにもバッテリーを供給しているため、今後の販売状況次第ではアップルとサムスンで奪い合いになる可能性もある。
最大メディアも必死の火消し
一連の問題によって、サムスンの株価は大幅に下落している。また、サムスンSDIも大きく値を下げている。
サムスン証券関係者によると、返金や製品交換で1200億ウォン(約108億円)程度の費用がかかるとみられている。さらに、9月中に生産される製品のほとんどは、すでに販売された製品の交換に充てられるため、販売量は当初予想の半分程度にとどまるとみられている。
韓国の市場関係者は、総額2~4兆ウォン程度の損失と計算しているが、これは当初予定の目標販売台数である1200万台を達成する前提での数字だ。販売が伸びなければ、それ以上の損害が出るだろう。
韓国最大の通信社である聨合ニュースは、「海外の消費者の信頼は大きく低下していない」として、影響は軽微との見方を示している。さらに、消費者の意見として「サムスンの迅速で効果的な対応に、信頼がさらに高まった」との声を紹介するなど、サムスンブランド失墜を食い止めようとの意向が見て取れる。
当然、今後も買い控える向きが増える可能性は高い。ただでさえ韓国経済の低迷のあおりを受けて国内販売が増えず、海外でも業績の頭打ちが懸念されていたなかでのトラブルだけに、今後の動き次第でサムスンの経営に深刻な影響をもたらすおそれもある。
(文=林秀英/ジャーナリスト)