小売りや外食業界で、値下げや低価格商品を投入する動きが広がっている。消費者の節約、生活防衛の姿勢が強まったことが背景にある。
日経平均株価が2万円を超えるなど株価が好調だった2年ほど前には、株高の恩恵を実感できなくても、なんとなく景気が良くなりそうだという期待が漂っていた。
しかし、2014年4月に実施された消費税増税の影響は、政府が想定した以上に大きく、景気回復は夢のまた夢となった。増税によって家計の財布の紐はきつく締められたのだ。
それでも、消費者の節約志向は15年のインバウンド(訪日外国人)消費の盛り上がりの陰に隠れて目立たなかった。だが、今年に入り中国人観光客の爆買いは終わった。インバウンド消費がしぼんで、各企業は消費者の節約志向に正面から向き合わざるを得なくなった。百貨店や量販店は1人当たりの購買金額が大幅に減り、外食は客足が遠のいた。
そこで、客を呼び戻すために各社とも低価格路線にかじを切ったのだ。デフレ価格への回帰である。
値上げから一転、値下げに舵を切る小売り各社
機を見るに敏なのが、カジュアル衣料ユニクロを運営するファーストリテイリングの柳井正会長兼社長である。かつて“デフレの勝ち組”と呼ばれたが、アベノミクスで景気が回復してきたと見るや、いち早く脱デフレに軸足を移した。14年と15年に、2年続けて値上げを断行したが、その反動は大きく、深刻な客離れを引き起こした。ユニクロは低価格が魅力だったが、値上げで割安感が失われたためだ。強気の値上げ策は失敗に終わった。
しかし、ファストリは切り替えが早かった。ユニクロは今年の春夏ものから価格戦略を転換、値下げを実施。ユニクロのウリだった値ごろ感を回復させるために、価格を値上げ前の水準に戻した。
一部の商品を値下げしたことが奏功し、7月まで既存店売上高は4カ月連続でプラスとなった。台風が相次いだ影響もあり、8月は前年同月比で1%減とわずかに減少した。売り上げが回復したからといって、客足が戻ってきたわけではない。今期の客数は、7月にプラスになった以外、前年同月の実績割れであることに変わりはない。
2度の値上げで15年12月の客数は14.6%減と2ケタ落ち込んだ。16年8月の客数は1.6%減と減少幅は縮まってきたとはいえ、元に戻ったわけではない。客単価の上昇で客数の減少を補い、既存店の売り上げがプラスになったわけだ。