カジノを含む統合型リゾート(IR)を推進する議員立法「カジノ解禁法案」(カジノ法)が12月6日の衆院本会議で可決した。参院本会議で可決すると、国内のリゾート施設へのカジノ導入が始まる。
カジノ誘致にことのほか熱心なのが、長崎県佐世保市にある大型リゾート施設、ハウステンボス(HTB)だ。HTBは12月6日「日本で最初のIRを設置できることになれば喜ばしい」とコメントした。
神奈川県横浜市の山下公園に隣接する山下埠頭と大阪府大阪市の人工島が当選確実とみられている。第3の候補地は沖縄だったが、2014年に当選した翁長雄志知事は「カジノ反対」を明言、IR誘致レースから降りた。そこでHTBが有力な第3の候補に浮上した。
ハウステンボスは開業以来18年連続で赤字を続けた。10年に旅行大手エイチ・アイ・エス(HIS)が子会社にして経営に参画すると、初年度にあっという間に黒字に転換。15年9月期に経常利益100億円を達成し、再建を果たした。
HTBを買収したHIS創業者の澤田秀雄氏は日本の西端にあるHTBを、どう成長軌道に乗せるのか。その目玉がカジノだった。
HTBや地元の佐世保市などは、07年からカジノ誘致の経済効果を試算している。12年には年間来場者数500万人、経済波及効果2544億円、新規雇用1万1000人との数字をはじき出した。
澤田氏がHTBの社長に就任してから、カジノ誘致は本格化した。HTBがカジノ誘致を推進する西九州統合リゾート研究会の事務局を務めている。2年前には疑似コインを使ってカジノ気分を味わえる「アミューズメントカジノ」を開設した。今年2月にはロボットカジノが関係者限定で1日だけオープンした。ルーレットとバカラ、ブラックジャックのテーブルを設け、ロボットがディーラーのサポート役を務めた。
澤田氏は「全国を見てもHTBほどぴったりな場所はない」と自信をみせている。長崎県や佐世保市はIR誘致に積極的だ。人口の流出で過疎化に悩む自治体にとって、新たな雇用や他地域からの人の流れを創出するチャンスと捉えているからだ。
ハウステンボスは初の減収減益決算
HISは11月1日、創業者で会長の澤田秀雄氏が社長に復帰した。澤田氏は04年に会長就任以来、12年ぶりの復帰である。主力の旅行業の成長に鈍化の兆しが見えてきたからだ。HTBで手掛けたロボットホテルをビジネスの中核に育て、グループの再成長に向けて陣頭指揮をとる。
HTBの16年9月期決算(単体)はHISの傘下に入って以降、初めて減収減益となった。売上高は前期比3.8%減の286億円、経常利益は29.3%減の65億円。4月の熊本地震や、台風の接近が相次いだことが響いた。
入場者数は熊本地震後の5月に前年同月比で3割減少。4月や6月も大幅に落ち込んだ。15年10月~16年9月では前期比6.9%減の289万人だった。外国人観光客数も前期比8割程度にとどまった。17年9月期の入場者数は341万人と想定し、売上高は328億円、営業利益は100億円と増収増益を見込んでいる。
ロボット接客ホテルを100店展開する計画
澤田氏が強気なのは、HTBを舞台に手掛けている新しいビジネスに手応えを感じているからだ。ロボットを大量に活用して運用効率を高める「変なホテル」は11月17日、ギネス世界記録に「初めてロボットがスタッフとして働いたホテル」として認定された。
15年7月に開業した変なホテルは、客室144室。稼働するロボットは順次増え、現在は16種類、計186台が接客や清掃などにあたっている。ホテルで働く従業員は9人と、開業当初の3分1の水準になった。
17年1月にHTBやHISなどが出資してロボット開発やコンサルティングを行う新会社を設立し、九州大学内にロボットや人工知能(AI)の研究所を置く。ロボットが働く変なホテルは国内に続き、3~5年で世界約100カ所に展開する計画だ。
本業の旅行業が伸び悩むなか、澤田氏はHTBで芽が出そうな新規事業を収益源に育てるためにHIS社長に復帰した。同氏が成長の源として大きな期待をかけているのがカジノ誘致だ。すでにHTBの園内にカジノホテルを建設する構想を打ち出している。横浜市の山下埠頭、大阪市の人工島に続き、ハウステンボスがカジノを誘致できるのか。政治力が決め手となる。
(文=編集部)