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小黒一正教授の「半歩先を読む経済教室」

異次元緩和がダメなら財政で物価目標達成できる? 注目集まる「物価水準の財政理論」の死角

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日本銀行(撮影=編集部)

「物価水準の財政理論」(Fiscal Theory of the Price Level)は学術的に発展途上の理論で、その妥当性に対する論争もあるが、デフレ脱却に向けた2%の物価目標が達成できず、量的・質的金融緩和(いわゆる「異次元緩和」)の限界が明らかになるなか、急速に注目を集めつつある。

 そこで、今回のコラムでは、「財市場」「公債市場」「貨幣市場」の3つの市場があり、「政府部門(日銀を含む)」と「民間部門」の2部門しか存在しないという想定の下、FTPL(物価水準の財政理論)が成立する条件を少し考えてみよう。

 まず、貯蓄手段が貨幣か公債しか存在しない場合、民間部門の資金源と使途の関係は以下の通りとなる。

期末の貯蓄(民間部門が保有する公債残高+貨幣残高)+消費+税負担
=生産所得+期首の貯蓄(民間部門が保有する公債残高(元利合計)+貨幣残高)…※1
 
 この式は、財市場の均衡(生産=消費+政府支出)が成立する場合、以下と同等になる。

民間部門が保有する公債残高の変化
=基礎的財政収支(税負担-政府支出)+貨幣残高の変化(貨幣発行益) …※2

この(※1)式と(※2)式は、民間部門と政府部門における一時点の予算制約を意味するが、この式を現在価値(Present Value)にして将来にわたって積み上げると以下の通時的予算制約を得る。

民間部門保有の貯蓄残高÷物価水準 + ∑実質所得のPV
=∑実質税負担のPV+∑貨幣保有の実質機会費用のPV+∑実質消費のPV…※3
 
民間部門保有の公債残高÷物価水準
=∑実質基礎的財政収支のPV+∑実質貨幣発行益のPV…※4

 その際、(※3)式は、現在の貯蓄残高と将来所得の合計の範囲内で、将来の税負担、貨幣保有の機会費用のほか、将来消費の経路を選択することを意味する。また、(※4)式は、現在の公債残高は、将来の基礎的財政収支と貨幣発行益で返済される必要性を意味するが、この両式で重要なことは、財市場の均衡が成立する場合、(※3)式と(※4)式は互いに裏表の関係にあるという視点である。

 というのは、たとえば(※4)式で政府が減税を実行したとしよう。このとき、(※4)式・右辺の財政収支が悪化するので、「民間部門保有の公債残高÷物価水準>∑実質基礎的財政収支のPV+∑実質貨幣発行益のPV」(※5式)となるが、その裏で(※3)式では、民間部門の税負担が減少するため、(※3)式でも「左辺>右辺」となる。これは、「民間部門保有の貯蓄残高÷物価水準 +∑実質所得のPV>∑実質税負担のPV+∑貨幣保有の実質機会費用のPV+∑実質消費のPV」(※6式)となることを意味する。

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