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吉田潮「だからテレビはやめられない」

渡瀬恒彦が亡くなってしまった…『相棒』より断然面白い『警視庁9係』はどうなっちゃうのか

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警視庁捜査一課9係 HP」より

 俳優の渡瀬恒彦が亡くなった。訃報を知ったとき、思わず声を上げてしまった。私の大好きなシリーズモノ『警視庁捜査一課9係』(テレビ朝日系)はどうなるんだ……。正直、『相棒』や『ドクターX』(共にテレ朝系)よりも面白かったと思っている。『タクシードライバーの推理日誌』(同)も大好きだったけれど、連ドラとしては9係、渡瀬といえば9係なのである。

 渡瀬恒彦の素晴らしいところは、2時間モノを主軸とした、控えめで地道な俳優人生を送ったところだと思う。ド派手に太陽の光を浴びて輝くスター街道をよしとする石原軍団とは異なり、渡瀬は月の光のような存在だった。訃報が流れた16日、テレビ朝日は急遽、「追悼・渡瀬恒彦」の映像を流した。そこからも伝わってくる、真摯な俳優業への取り組み。涙。合掌。

 で、私が懸念しているのは4月から始まる予定の『警視庁捜査一課9係シーズン12』である。1・2話はすでに収録を終えているらしいが、その後は渡瀬の存在をどう表現するのか。9係を観ていない人のために、簡単に解説しておくと、9係は捜査一課のなかでもいわゆる特殊な課である。渡瀬は敏腕刑事なのだが、我が道を行く捜査手法で、組織のなかではどちらかというと鼻つまみ者という役柄だ。

 その相棒はイノッチこと井ノ原快彦。渡瀬の娘・中越典子と恋仲なのだが、その恋模様もなかなか前進しないことが9係ファンの間でも話題である。一歩進んで二歩下がるイノッチに、みんなやきもきしてもいる。

 さらに、9係の面々には、独身ライフを謳歌し、通信販売が大好きな羽田美智子、羽田に密かな思いを抱きつつ、卑怯と邪気が満タンの津田寛治、飄々と仲間を出し抜くあざとさが軽妙洒脱な吹越満、吹越を諫めつつ認めつつも穏やかなバディの田口浩正。9係の6人は、昨今の刑事ドラマのなかでもかなりバランスのいいチームだったのだ。

 熱い正義感とか、仲間を思う気持ちなんて出てこない。お互いに情報を隠したり、出し抜いたり、茶化したり、でもなんとなく事件を解決していく。この9係の係長が渡瀬である。9係メンバーは係長を敬うでもなく、頼るでもなく、適度な距離感と信用を保っている。

 絶妙な刑事チームの名作に、渡瀬も体力の限り、最後まで出演を希望したのだろう。その意志を、俳優魂を、9係メンバーが受け継いでくれることだろう。たぶん、4月の9係、私は涙ナシには観られないだろうなぁ。追悼の意を込めて、真剣に9係を楽しもうと思う。
(文=吉田潮/ライター・イラストレーター)

●吉田潮(よしだ・うしお):
ライター・イラストレーター。法政大学卒業後、編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。「週刊新潮」(新潮社)で「TVふうーん録」を連載中。東京新聞でコラム「風向計」執筆。著書に『幸せな離婚』(生活文化出版)、『TV大人の視聴』(講談社)などがある。