とすると、少なくとも遡ること約2週間前の時点で、てるみくらぶの経営陣は会社が破産する可能性が高いことを認識しながら、顧客から旅行代金を受け取っていた可能性があります。
一般的に、破産申立てをするか否かの相談を弁護士にするということは、その時点において経営が相当程度、難局に陥っていることが多いといえます。
さらには、破産申立ての依頼を受けた弁護士は、破産申立ての準備が整った頃には、「1週間後の〇月〇日には破産申立てをしますので、申立日の午前中に社員を集めて説明会を行ってください」「金融機関への説明会を設定してください」など、申立前後の計画や段取りを助言しますので、おそらく3月20日前後には、破産に至ることを確信していたのではないでしょうか。
このように考えてみると、てるみくらぶの経営陣は、破産間際の“取り込み詐欺”として詐欺罪が成立する可能性はゼロではないと思います。
「故意なし」との主張には無理
なお、山田社長は記者会見で「詐欺をはたらくとか、毛頭考えておりません」「会社はこの1カ月の間に入金された顧客からの旅行代金は経営資金に充てるために使用した」旨、発言していましたが、おそらく、詐欺罪を追及されることを恐れ、「会社が倒産するとは考えていなかった。旅行代金を経営資金に充てればお客さんにサービスを提供できると思っていた」ことをアピールしたかったのでしょう。
しかし、上記の通り遅くとも破産を確実に認識したと思われる3月20日前後の時点で会社を維持すること=旅行サービスを提供することが極めて困難であると認識することが可能であった以上、それ以後のネット広告や新聞広告を全部取りやめるべきでした。
ところが、てるみくらぶは3月22日の時点でも「現金一括の場合に限り格安」といったツアー広告を出していたわけです。これは、破産を確実に認識しながら、顧客に対し旅行契約を申し込むよう誘因したといえますので、詐欺、少なくとも詐欺未遂の故意がなかったとの主張は無理があるのではないでしょうか。
(文=山岸純/弁護士法人ALG&Associates・パートナー弁護士、荻野正晃/同法人弁護士、高橋駿/早稲田大学大学院法務研究科、前里康平/同)