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韓国、慰安婦問題合意を破棄か…自ら日韓関係悪化させ経済破綻危機の兆候

文=真壁昭夫/法政大学大学院教授
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韓国、慰安婦問題合意を破棄か…自ら日韓関係悪化させ経済破綻危機の兆候の画像1韓国・ソウルの日本大使館前に設置された少女像(写真:Lee Jae-Won/アフロ)

 朝鮮半島は歴史的に米中露の大国のエネルギーが衝突する、世界の地政学リスクの要所だ。4月6日、米国はシリアへトマホークミサイルを発射し、中東での影響力拡大を狙うロシアをけん制し、北朝鮮の核開発などを抑止できていない中国に圧力をかけた。ただ、これが状況をすぐに改善させるとは考えづらい。

 朝鮮半島の安定には、まず当事者である韓国が重要である。韓国は米国や日本との関係を強化し、日本、アジア各国との政治・経済面での連携を進めるべきだ。ところが、実際の韓国の政治は、どこに向かっているのかわかりにくい。現在、韓国では前政権下でのスキャンダルへの反感、反日姿勢が強まっている。

 もうひとつの当事者である北朝鮮は、制裁の解除など自国に有利な条件を引き出すために、ミサイルの発射、核開発を続けている。中国ですら北朝鮮の暴走が止められないなか、米国はこれまで以上に対北朝鮮政策を強硬にする可能性がある。朝鮮半島情勢の緊迫化は避けられないだろう。日本はこうした展開を見越してアジア各国との関係強化を急ぎ、国際的な発言力の向上に徹するべきだ。

追い込まれる韓国 必要対日関係の改善

 5月9日、韓国では大統領選挙が実施される。朝鮮半島情勢の安定のためには、次期大統領が日米との関係を重視し、政治・経済、そして安全保障の基盤を固めることが欠かせない。問題となるのは、韓国の新政権の運営への不安が高まっていることだ。

 4月6日、トランプ大統領はシリアに向けてミサイルを発射し、強い米国を印象付けて国民の支持を得ると同時に、中国、ロシアに圧力をかけようとした。見方を変えると、国際社会の同意がないなか、単独での強硬策をとらなければならないほど、トランプ政権は追い込まれているといえる。ロシアは米国の攻撃を批判し、中国は直接的な言及を避け、政治的解決を呼びかけるにとどめている。

 トランプ政権への不安が高まるなか、韓国は国際社会での発言力を高め、同じ考えを持つ理解国を増やさなければならない。北朝鮮の暴走を抑えるためには、国際社会の働きかけが重要だ。当たり前だが、数の面で賛同してくれる人がいないと、発言力を高めることはできない。まず、どの国が韓国と同じ考えを共有できるかを見定め、外交関係を強化していく必要がある。

 今、韓国にとって必要なのは対日関係の改善だ。日本にとっても北朝鮮の核開発などは脅威だ。韓国が対日関係を改善できれば、自国の立場を国際社会に訴え、賛同を取り付けやすくなるだろう。中長期的な社会の安定にはそうした視点が欠かせない。

 しかし、韓国の現状はよくわからない。今のところ、大統領候補者の主張に共通するのは、反日姿勢、財閥解体による政財界の癒着排除などだ。経済が低迷するなか、本気で財閥を解体できるかは未知数だ。北朝鮮との融和を訴える候補の支持率も高い。韓国の政治は中長期的な国力の増強よりも、目先の不満解決に向かっているとも考えられる。それは韓国の政治が大衆に迎合する“ポピュリズム政治”に流れていることを示唆する。

緊迫感高まる朝鮮半島情勢

 ポピュリズム政治が進むと、政治は目先の世論に迎合し始め、中長期の視点に立った改革は進みづらくなる。韓国の政治・経済の不安定感は高まり、朝鮮半島情勢は今以上に緊迫化する可能性がある。近年の経済低迷の不満を解消するために、朴前政権は中国との関係強化を重視した。そこには北朝鮮をけん制する狙いもあったはずだ。

 しかし、韓国が米国製のミサイル迎撃システムの配備を進めると、中国は韓国を批判し、制裁措置まで導入している。中国に頼って朝鮮半島情勢を安定させるのは難しいだろう。中国が韓国に求めているのは恭順だ。秋の共産党大会に向けて支配基盤を固めようとしている習近平国家主席の本音は、「素直に言うことを聞くのであれば面倒は見る、そうでなければ関係は強化しない」だろう。習氏の指導の下、海洋進出などの覇権強化を進めつつ、国際社会に与える影響力の拡大も目指されるはずだ。米国の圧力を受けて、北朝鮮の軍事的挑発を抑えたり、不均衡の是正に向けた通商交渉に応じる可能性は低いと考えられる。

 韓国にとっての現実路線とは、中国とは付かず離れずの関係をとりながら、日米との関係を強化することだ。反日姿勢はそれを妨げる。大統領選挙に向け、各候補ともに、朴被告(前大統領)が日本と合意した慰安婦問題に関する最終的な合意の再交渉を求めている。国際政治のなかで、政府間の最終合意を再交渉するのは前代未聞だ。

 米欧を中心に自国第一主義の政治が進むなか、貿易依存度の高い韓国経済が厳しい状況に直面する可能性もある。経済を牛耳る財閥の経営が行き詰まれば、社会の閉塞感は高まるだろう。朝鮮半島情勢の安定が見込みづらくなれば、韓国ウォン安が進み、輸入物価を通してインフレ率が上昇することも考えられる。不透明かつ、不安定な状況に対応するためには、日韓通貨スワップ取極など、日本との政治、経済面での関係を強化することが重要だ。

優先されるべきアジア各国との関係強化

 今後、韓国の反日姿勢は強まるだろう。日本は、それに過度な配慮を示す必要はないだろう。政府間の合意遵守だけを求めればよい。政府間合意が遵守されているかどうか、事実に基づいた判断が求められる。

 日本は、国際社会における存在感の向上のためにエネルギーを使うべきだ。韓国が直面する状況は、対岸の火事ではない。朝鮮半島情勢の緊迫化懸念が高まるなか、日本はアジア各国との関係強化を急ぐ必要がある。自国の利益を守るためには、多くの親日国を獲得しなければならない。民主主義の根底には多数決による意思決定がある。力の論理ではなく、数の論理で米国を中心とする安全保障面の強化、多国間の経済連携の重要性を国際社会に届けることができるよう、日本はインフラ外交などを進めてアジア各国との関係強化に動くべきだ。見方を変えれば、韓国が対日関係の改善を求めるほどに、対アジア外交を強化すればよい。

 今、世界の安定に必要なことは、軍事力の行使に代表される“ハードパワー”ではない。大国がハードパワーを行使し始めると、世界は未曽有の危機に直面する。重要なのは、自由経済を重視し、国際連携を推進してきた米国の吸引力、価値観である“ソフトパワー”を各国間で共有することだ。

 米欧が内向きに走るなか、日本はその価値観を代弁すべきだ。世界を支えてきた価値観を米国が取り戻すことができないと、強硬姿勢を思いとどまらせることも難しい。米国の強硬姿勢が続くと、朝鮮半島情勢だけでなく、世界全体が厳しい状況に直面するおそれがある。本当にそうした状況になれば、欧州ではドイツ、ロシアの影響力が強まり、中国がさらなる覇権強化を目指すなど、世界は不安定化するだろう。

 世界はこれまでの発想が通用しない“非連続”かつ“不確実”な状況を迎えている。わが国がこの状況に対応し、自国の安定を実現していくためには、グローバル化の推進などの是は是、保護主義政策などの非は非、の立場を明確にし、他国の賛同を取り付けることが欠かせない。
(文=真壁昭夫/法政大学大学院教授)

真壁昭夫/多摩大学特別招聘教授

真壁昭夫/多摩大学特別招聘教授

一橋大学商学部卒業、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学大学院(修士)。ロンドン証券現地法人勤務、市場営業部、みずほ総合研究所等を経て、信州大学経法学部を歴任、現職に至る。商工会議所政策委員会学識委員、FP協会評議員。
著書・論文
仮想通貨で銀行が消える日』(祥伝社、2017年4月)
逆オイルショック』(祥伝社、2016年4月)
VW不正と中国・ドイツ 経済同盟』、『金融マーケットの法則』(朝日新書、2015年8月)
AIIBの正体』(祥伝社、2015年7月)
行動経済学入門』(ダイヤモンド社、2010年4月)他。
多摩大学大学院

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