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終盤で視聴率大幅アップ『貴族探偵』…相葉は口を開かない演技のほうが向いている?

文=吉川織部/ドラマウォッチャー
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終盤で視聴率大幅アップ『貴族探偵』…相葉は口を開かない演技のほうが向いている?の画像1『貴族探偵』公式サイトより

 嵐の相葉雅紀が主演する月9ドラマ『貴族探偵』の第9話が12日に放送され、平均視聴率が8.4%(関東地区平均、ビデオリサーチ調べ)だったことがわかった。自己ワーストを記録した前回から1.4ポイントの上昇となった。

 前回の放送直後から、インターネット上では「第9話に備えて『こうもり』を読んで」との原作ファンの“布教活動”が目立った。『こうもり』とは、このドラマの原作において小説でしか使えない「叙述トリック」「逆叙述トリック」が仕掛けられているため、映像化不可能といわれていた短編のこと。最終回目前での視聴率急上昇の背景には、原作ファンの熱心な宣伝もあったといえよう。

 そんな第9話は、小説家の大杉道雄(小市慢太郎)とその妻である元女優・本宮真知子(高岡早紀)、そして真知子の妹・佐和子(田中千絵)を中心としたストーリー。道雄や真知子らとキャンプに来ていた佐和子は森の中で遺体となって発見されるが、その頭には花の冠がかぶせられていた。犯行は佐和子とともにキャンプに来た道雄や真知子ら4人のうちの誰かだと思われたが、全員にアリバイがあった――という展開だった。

 佐和子の遺体を発見した貴族探偵(相葉)は、開口一番「実に美しい」とうれしそうにつぶやく。この人物、「人の気持ちを考えろ!」と説教したかと思えば、こんな不謹慎な発言を連発するなど、どうにも言っていることに一貫性がない。また、絞殺死体であるはずなのに首に絞められた跡がなく、眠るように穏やかな表情で亡くなっているのもおかしい。ただ、こうした幾つかの不自然な点に目をつぶれば、第9話はミステリーとしてかなり見ごたえのある回だったといっていい。

原作ファンからも「見事」の声

 いつも推理を外してしまう愛香(武井咲)も、今回は一見すると穴のない推理を披露した。視聴者はこのドラマのお約束として愛香が毎回誤った推理をすることを知っているが、今回ばかりは「道雄がそっくりさんを使ってアリバイをつくった」との推理に間違った点は見当たらない。それもそのはず、劇中で愛香が披露した謎解きは、原作では大筋では正解なのだ。つまり、今回の脚本は原作を上回るトリックを仕掛けたことになる。

「こんなに正しそうに見える謎解きのどこが間違っているのか」と必死に考えながら探偵の推理を聞くのは、ほかの探偵ドラマではなかなか味わえない感覚だ。回ごとのクオリティの差が激しく、この感覚を味わえたのはここまでの9回のうち3回ほどしかない。仮に、これが6~7回あったなら、ミステリードラマの傑作としてもう少し称賛されていたかもしれない。

 そっくりさんを使うトリックは、陳腐といえば陳腐ではあるが、これも原作通り。ドラマの中では愛香と鼻形(生瀬勝久)がカフェで偶然道雄に遭遇した際、過去に道雄のそっくりさんが無銭飲食で捕まる事件があったとの情報が視聴者に提示されている。ミステリーにおいて「実は双子でした」「実はそっくりさんでした」というトリックはルール違反だが、今回のように読者や視聴者に手掛かりが示されている場合はセーフだ。なおかつ、今回は単なるそっくりさんを使ったトリックと見せかけて、原作にもない驚愕のトリックを視聴者に仕掛けてきた。

 原作ファンの裏をかき、それでいて真犯人の情念をより強調するストーリーに仕上げた脚本を素直にたたえたい。原作ファンからも「予想を軽々と超えてきたのは見事としか言いようがない」「原作を読んだせいで先が読めない」「原作を改変したのに原作の度合いが強まっている」など、称賛が相次いだ。

 事件解決後、愛香は貴族探偵に「あなたが殺したんですね? 政宗是正さん」と切子(井川遥)の死の真相を問いただした。射貫くような鋭い眼つきで顔を上げ、何も答えないままゆっくりと愛香に近寄って花冠をかぶせたラストシーンは、身震いするほどの迫力。そのまま愛香を殺害してしまうのではないかと思うほどの緊迫感が漂った。

 相葉はどうやら、女性に浮いた台詞を並べる貴族探偵の日常を演じるのには絶望的に向いていないが、時折見せるわけありげな裏の顔の演技には意外と向いているようだ。貴族探偵の正体や切子の死の真相に迫るラスト2回も、後者の演技が多くなることが予想される。コメディー路線から本格ミステリー路線への軌道修正、相葉をはじめとする役者陣の生かし方など、終盤にきてようやくドラマとしての完成形が見えてきた『貴族探偵』。残る2回も楽しませてほしい。
(文=吉川織部/ドラマウォッチャー)

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