7月に入り、警察庁が発表したパチンコの出玉規制。一般的な遊戯時間(4時間)での儲けを現行の十数万円から上限5万円程度にするなど、いくつかの方針が固められた。
昨今の段階的な規制強化によって、パチンコのスペックは「勝ちにくい」、つまり「勝ち額が少ない」方向に変わってきている。大当り確率400分の1、確変突入率80%以上の通称「MAXスペック」が全盛の時代は、いわば「ハイリスク・ハイリターン」といえる。
そのMAXスペックが禁止され、よりマイルドなスペックでしかつくれなくなった最近は、いわば「ミドルリスク・ミドルリターン」だ。
そして、今回の規制は「ミドルリスク・ローリターン」への変化ではないだろうか。
「大当り出玉の規制をするけど、ユーザーが今ほどお金を使わなくて済むような規制が含まれていないのなら、単に負けやすくなっただけのこと。いったい、パチンコ業界をどうしたいんだろうね」と憤るのは、東京都内の大手パチンコホール企業に勤めるAさんだ。
2016年末に成立した「特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律」(IR推進法)によるカジノとのからみやギャンブル依存症対策などが背景にあるといわれる、今回の出玉規制。実際、どんな思惑があるのか。そして、パチンコ業界に与える影響はどのくらいなのか。
依存症客だけが残る?ホールへの嫌がらせも
「業界への影響は小さくないよ。市場規模は縮小するだろうし、ホールも潰れる。台が売れない弱小パチンコメーカーは、倒産するかもね」(Aさん)
1995年頃に約30兆円だったパチンコの市場規模は、2015年には約23兆円にまで減少。店舗数は約1万8000店から約1万店に激減している。
「ホールはもともと多すぎなので、今の半分くらいが適正だと思う。そもそも、新台を購入できる有効店舗数が5000~6000店といわれていて、それ以外のホールは中古台でやり繰りしたり、入れ替え自体をしなかったり……。そんなホールは、遅かれ早かれ潰れるのが当然というわけ」(同)
個人経営のホールや小規模店は潰れ、大規模チェーン企業が店舗の大型化を進めるという傾向は、今後も続きそうだ。
「市場規模は小さくなるけど、業界全体の利益率や稼動率は、むしろアップするんじゃない? だって、儲かっていないホールが潰れて、儲かっているホールが店舗を増やすんだから」(同)
あくまでもAさんの個人的な予想だが、勝ち組が残り、負け組が退場することで、業界全体の数値は健全化されるという。では、今回の規制でホールにはどんな影響があるのだろうか。
「『依存症対策』とか言っているけど、依存症の人は何があっても来るから関係ない。より勝ちにくくなったことで、一般ユーザーはパチンコに見切りをつけ、依存症の人が残る。結果的に、依存症の人たちの存在がさらにクローズアップされるという悪循環を生むんじゃない?」(同)
すると、どんなことが起きるのだろうか。
「そもそもユーザーが負けやすくなったことで、ホールに対する嫌がらせが激化すると思う」(同)
負けたユーザーが「あの店は出ない」「遠隔(操作)をしている」などと、インターネット上に憂さ晴らしの書き込みをするのは、よくあることだ。しかし、実際にはもっと直接的な嫌がらせもあるという。
「コーヒーレディや女性店員が客からセクハラされることもあるよ。『こんなに負けてるんだから、少しくらい触ってもいいだろ』ってロジックらしいけど、いいわけないじゃん」(同)
苦い顔で、さらにAさんは続ける。
「ほかにも、パチンコ台にたばこの火を押し付けたり、わざと缶コーヒーをこぼしたり……負けて帰るときに盤面のガラスに唾を吐くなんて、かわいいほうだよ。嫌がらせでトイレを汚す人も多くて、現場の人は本当に困っているからね」(同)
それでも、ホールのトイレはいつもきれいに掃除されている。裏では、現場の人たちの苦労があるというわけだが、さらにひどい事態もあるという。
「小だけじゃなく、大もあるからね。わざと便器を外して大をしていく人がいる」(同)
今回の規制による煽りを一番受けるのは、ユーザーかもしれない。しかし、そのユーザーの憂さ晴らしは、ホールへと向けられてしまうのだ。
それでもパチンコ業界が絶対に潰れない理由
「警察庁は『きちんと監督しています』ってポーズを見せるだけ。メーカーは規則改正で新たに台が売れるからウハウハ。ホールは高い新台を買わされ、ユーザーの恨みまで買って……うちらの怒りは、どこに向ければいいのか」(同)
それでもAさんは、業界の未来を前向きに考えている。
「今回の規制の影響は限定的だよ。業界的には何年も前から『パチンコはもう終わりだ』と言われているけど、今も大丈夫じゃん。大手チェーンがユーザーの居場所を守り、ヘビーユーザーがたくさんお金を使ってホールや業界を支える。この構図がしばらく続くだけ」(同)
こうした規制の連鎖は、いつまで続くのだろうか。
「あくまでも個人的な予想だけど、少なくとも2020年の東京オリンピックまでは続くね。オリンピックで日本を訪れる外国人に見せたくないのが、コンビニのエロ本と繁華街の風俗店、そしてパチンコホール。『子どもの目に入るところにこんな不健全なものがあるなんて、日本はおかしい!』と思われるのが怖いわけ。
でも、パチンコ業界は潰せない。政治的なしがらみもあるし、警察庁のおいしい天下り先でもあるし……。あくまでも、警察はパチンコ業界を必要悪として“生かさず殺さず状態”にしているだけ。
カジノだって、『治安が乱れる』とか言って反対する人は多いでしょ。でも、そんなときに『パチンコよりはまし』『パチンコよりも自治体にお金が落ちる』と言える。そのためにも、パチンコは潰せないよね。絶対に必要な“悪”なんだから」(同)
「カジノへの理解が深まり東京オリンピックも終われば、パチンコ業界への風当たりは弱くなるはず」とAさんは言う。
「でも、その前にメーカーが何かしらの対策をすると思うよ。これまでも、規則を拡大解釈して『V確変』とか『小当たりRUSH』みたいな変則仕様を考えてきた歴史があるんだから。そういった新しいものをつくり出さないと、業界の未来は厳しい。それは、メーカーだってわかっているだろうし、ここらで底力を見せてほしいよね」(同)
パチンコ業界への厳しい規制の流れは今後も続きそうだ、と考える人は多い。しかし、そんな状況を打破する“独創性”を持っているのがパチンコ業界なのだ、と信じる人も少なくないのである。
(文=山下辰雄/パチンコライター)