「日本企業には優れた技術があるが、マーケティングのノウハウがないために海外企業に負けてしまう」という解説がよく聞かれ、書店にはマーケティングに関する書籍があふれている。前回の本連載で、「製品原価」について解説したが、今回はそれら商品が並べられる売り場について、立教大学経営学部教授の有馬賢治氏に解説してもらった。
“非計画購買”を引きつけるアイキャッチとは
――前回の「製品原価」は、マーケティングの4Pにおける「Price」(価格)に該当しましたが、売り場についてはどれにあたるのでしょうか。
有馬賢治氏(以下、有馬) 「Place」にあたります。「Place」では「流通」、すなわち販売チャネルが中心的に扱われますが、小売店頭の売り場づくりも含まれます。売り場づくりは小売業者が主体ですが、卸やメーカーでも研究されています。なぜなら、どのような配置にするのか、どこに並べるのかによって売上が変わることがあるからです。ですから、売り場作りもマーケティングでは重要な要素なのです。
――顧客に目に留めてもらいやすくするための戦略というわけですね。
有馬 そうですね。買いたいものが決まっていれば、顧客に売り場を探してもらえますが、何を買うかを明確に決めていない、“非計画購買”顧客に対応するためには、アイキャッチ効果のいい売り場づくりをしなくてはなりません。
――具体的に、どこが目に付きやすいのですか?
有馬 コンビニエンス・ストアの冷蔵庫などでは、一般的に上から2番目がよく売れるといわれています。これはお客さんが立って歩いたときに、ちょうど目の高さに商品がくるからです。子供向けのお菓子などが棚の下段のほうに並べられているのも同じ理由からです。このようなゴールデンゾーンに自社商品を置いてもらうために、営業担当者が店頭を回覧して店舗と交渉することもあります。
“いい商品でお値打ち価格”だけではダメ
――季節によっても陳列の工夫がありますか?
有馬 はい。コンビニでは夏はビールやアイス菓子、冬はおでんや肉まんなどよく売れる商品を店内の目立つところに置いています。特に冬場のおでんや肉まんは、“ついで買い”を誘発させるためにレジの近くに置いていますね。あとは、たとえば寒くなったら、スーパーなどでは肉、野菜、調味料といった鍋物の具材を同じエリアで売る「クロスマーチャンダイジング」という売り方をして、手に取らせやすくもしています。
――逆に買う予定のものが見つからないとイライラすることもあります。
有馬 売り場づくりのテーマは、機会ロスを少なくすることでもあります。いくらいい商品を買いやすい価格で提供できたとしても、置いてある場所がわかりづらいと機会を失する可能性があります。ほとんどのスーパーの売り場が、生鮮食品から始まり、加工食品、乳製品、お惣菜というように陳列の順序がよく似ているのも、お客さんを混乱させないための工夫なのです。効率的で魅力的な売り場を作り、買い物自体を楽しめる演出をしていくことも、マーケティング戦略のひとつというわけです。
――ありがとうございました。
(解説=有馬賢治/立教大学経営学部教授、構成=A4studio)