皆さんの会社では、上司はどのような叱り方をしているでしょうか? ミスをしたとき、ルール違反をしたときなど、叱るタイミングはさまざまだと思いますが、その叱り方によって、部下の成長、組織の成長は、左右されてしまいます。
「叱る」ことは、組織の未来を作り上げていくためのコミュニケーションである。そう教えてくれるのが『「上に立つ人」の仕事のルール』(嶋田有孝著、日本実業出版社刊)。
本書は、著者である嶋田氏が新卒から勤めている株式会社日経サービスでの体験を元にした、小説仕立てのビジネス書です。
嶋田氏の入社時、会社の会長兼社長だったのが、「オヤジ」と呼ばれていた創業者の近藤勲氏。オヤジは、毎日のように嶋田氏を叱ります。しかし、それはすべて嶋田氏の成長につながり、ひいては会社の成長へとつながりました。
ここでは、本書のエピソードから、組織を育てる叱り方とそうではない叱り方の違いについて取り上げましょう。
■「〇〇が言っていたから」という叱り方はNG
嶋田氏が新人だった頃のこと。
監査を担当していた嶋田氏は、ある日、子会社の常務が経費を不正請求していることに気付きました。その額は2,000円ほどでしたが、少額だろうと不正は不正です。「これは許してはいけない行為だと思います」と進言し、オヤジに常務を叱ってもらおうとします。
しかし、オヤジは冷めた反応で「まぁ、ええわ。お前から注意したらええ。『こんな情けないことは二度とするな』と伝えとけ」と言い渡すのみ。
「なんだ。それだけ?」と拍子抜けした嶋田氏が「では、『会長がそうおっしゃっていた』と伝えます」と言うと、オヤジの怒りが降りかかります。
「お前が常務を叱るんや」
なぜ嶋田氏は怒られてしまったのでしょうか? 問題は「会長がそうおっしゃっていた」という言葉でした。オヤジは、嶋田氏に自分の責任で常務の不正を指摘し、叱るように求めたのです。
嶋田氏は当初、「新人の自分が常務を叱るなんてできない」と戸惑いましたが、それは単なる思い込み。不正行為を指摘し、注意することに年齢も役職も関係ありません。実際にやってみるときちんと叱ることができました。
「社長が言ったから」「会議で決まったから」
伝えにくいことを言う時に、こうした言葉を枕にする人がいますが、責任逃れでしかありません。伝えるべきなのは「誰が言ったか」とか「どうやって決まったか」ではありません。「なぜそう決めたのか」「なぜダメなのか」という理由です。
リーダーが責任から逃げると組織はまとまりません。自分の責任で、しっかり相手に伝えることが大切なのです。
■組織の変化は、一人ひとりに課題を気付かせることからはじまる
ある日、仕事で訪問した大学の秘書室スタッフの接遇に感動したオヤジは、嶋田氏に「うちもお客さんの出迎え方を改めろ」と指示します。
嶋田氏はさっそく総務部長に、来客があったときは全員が立って出迎え、大きな声であいさつするようにと伝えました。しかし、2週間経っても来客時の態度は改まりません。見かねたオヤジは、総務部長を叱りつけます。
総務部長は、あいさつができていないことについて、ミーティングで全員を叱責したことを報告しました。するとオヤジは納得するどころか、さらに怒りを露わにします。総務部長のどこがいけなかったのでしょうか? それは、彼の「叱り方」でした。
「叱る」ということは、一人ひとりに「できていない部分」を気付かせること。ミーティングで全員に伝えても、具体性がなければ、個々人は反省も改善もできず、効果はゼロ。マン・ツー・マンで叱らないといけなかったのです。
部下が抱えている課題や問題点は、それぞれ違います。一人ずつ、どこができていて、どこができていないのかを把握し、それを指摘することで、初めて各々が自分の課題に気付き、改善につなげることができるのです。
もちろん一度伝えただけで変わる部下はなかなかいません。部下指導は根比べ。何度も何度も繰り返し指導することが必要です。
一人ひとりと向き合った、粘り強い指導が組織を良い方向に変えていくのです。
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「伸びる会社」と「沈む会社」を分けるもの――それは、取り組むビジネスの分野でも、販売する商品でもありません。人材です。だから、懸命に部下を育てるリーダーのいる会社が伸びていくのです。
本書に書かれているのは、叱り方だけではありません。部下指導、営業活動、新人育成など盛りだくさん。小説仕立てなので、面白く、サクサク読めるうえ、実践的で参考になる一冊です。
(新刊JP編集部)
※本記事は、「新刊JP」より提供されたものです。