転機となる予感
自動車産業は、100年単位の大きな転機にあるといったら大げさに聞こえるかもしれないが、今後何十年かを経て、過去を振り返ったとき、2017年が転機だったといわれるのではないか。筆者はそのように考えている。
転機をもたらす要因は多様かもしれない。グローバル化の進展、エレクトロニクス技術、情報通信技術、ネットワーク技術の発展による、世界規模での需要の変化、競争の激化などさまざまな視点でこれを論じることは可能である。
自動車という製品の問題に注目して展望してみたい。展望のキーワードは、電気自動車(EV)、自動運転、シェアリング・エコノミーの3つである。この3つが、100年にわたって継続していた自動車という商品のドミナント・デザイン、すなわち「自動車という商品とはこういうものであると、誰もが無意識に想定している姿」を大きく転換させる可能性が強まっている。今回は電気による駆動に絞って論じてみたい。
EV化への制約
我が国の自動車市場において、EVの販売は決して好調とはいえない。すでに発売から10年以上を経過しているが、売れ行きは芳しくない。
さらに深夜電力を使用することなどで燃料代(電気代)が大変低いことなど、EVには多くの利点がある。しかし同時にさまざまな特有のコストの存在がそれを上回り、所有者にとって総合的な価値が、内燃機関に及ばないことがEV不振の理由である。
第1に、航続距離の短さである。アメリカのテスラ社の高級車は、内燃機関と同等の500キロメートルの航続距離を誇るが、これは例外で、一般的なEVではせいぜい200キロ程度で、内燃機関の車の半分しかない。もちろん、電池を大型化すれば航続距離も延びるが、占有する容積、過大な重量、そして何よりもそのコストが過大になるので現実的ではない。
第2に、充電時間の長さである。石油燃料を満タンにする場合の給油時間は、ものの2、3分程度であろう。それに対して。車載電池の充電には、普通充電では6時間から8時間を要し、急速充電でも30分程度を要する。内燃機関の感覚で長距離走行することは困難であるということである。
第3に、ガソリンスタンドは各所にあるが、充電ステーションはその数が限られている。
これらのデメリットは、慣れの問題、また今後の電池技術、充電技術の進歩、インフラ整備のなかで解消していく性格のものともいえるが、しかし、長年内燃機関に親しんできたユーザー側の心理的な抵抗は極めて大きく、EV化がなかなか進捗しない現実がある。