元国税局職員、さんきゅう倉田です。好きな差押え財産は「4Kテレビ」です。
税務調査により追徴税額が発生しても、税金を納めない人がいます。いわゆる「滞納」です。この滞納になった税金を回収するのが国税徴収官です。
財産を差し押さえて滞納処分を行うほかにも、諸事情や態度を考慮して分割での納付を提案することもあります。たとえば、取引先からの支払いが遅れて資金繰りが切迫しているが、来月からは新しい取引先からの入金が帳簿でも確認でき、担保もある場合などは、分割での納付が認められやすくなります。
ある徴収官が、勤務時間中に街中を歩いていると、以前から督促を続けている滞納者を見かけました。その滞納者は取引のないはずの銀行に入っていき、入金と出金を行っていました。いまだに差押えを行っていない理由としては、「廃業して収入がなくなったので税金は払えない」と頑なで、事業は経理担当者に譲り、事務所として所有していた不動産も経理担当者に譲渡し、預金もなかったためです。何度も自宅に臨場しましたが、「こんな収入のないところからではなく、もっとお金のあるところから取ってくださいよ」と開き直る始末でした。
銀行を出てから後をつけると、経理担当者に譲渡した事務所の2階に入っていきました。翌日、事務所に出向くと、確かに経理担当者が経営権を持っているように見えます。しかし、昼過ぎに会社を出た経理担当者は滞納者と会い、なにやら叱責を受けているようでした。
この時点で徴収官は、事業の譲渡は仮装されたものであり、売上の入金先を経理担当者の個人口座にしているだけで、実質の経営権は滞納者にあるのではないかと考えていました。つまり、滞納者は滞納処分を免れるために無職を装っている可能性があるのです。
そこで、徴収官は徹底的に財産調査を行うことにしました。まず、居住地と行動パターンを確認します。滞納者は住民票を古いアパートに移しており、そこに住んでいるものと考えられていましたが、実は経理担当者に売却した事務所の2階に住んでいました。滞納者は、毎日午後になると銀行に行き、ATMで現金を降ろし、窓口で経理担当者名義の定期預金に入金していました。銀行に照会をかけると、預金額は1億5000万円にも上っていました。