11月15日付の中国紙・北京青年報などによると、北京市環境局は大気汚染の主な原因となる微小粒子状物資PM2.5について、今年の平均濃度が1立方メートル当たり90マイクログラム前後になることを明らかにした。中国の環境基準の約2.5倍、日本の基準値の6倍に当たる。中国各地で大量の石炭を燃やす暖房が始まっており、警戒感が高まってきた。ボイラー燃料の石炭が、質の悪いガソリンによる自動車の排ガスに次ぐPM2.5の発生源だからだ。北京市の発表を受け、同市の日系企業の駐在員が家族を脱出させる動きが加速している。
中国黒竜江省のハルビンで10月21日、高密度の大気汚染物資を含む濃霧が発生し、PM2.5の濃度が1000マイクログラムの観測上限を超えた。視界が10メートル未満のひどい汚染に見舞われ、市内の全小中学校が臨時休校となった。高速道路の通行止めが相次ぎ、空港や鉄道、路線バスのダイヤが乱れた。ハルビンでは10月から家庭で暖房が始まり、燃料の石炭の使用量が急増したため、煤煙が大量に放出され、PM2.5の濃度が急激に高まった。風が弱い日だと北京でもハルビンと同じように濃霧が発生し、PM2.5の濃度が高まることになる。
世界保健機関(WHO)の下で化学物質など発がん性を評価している専門組織、国際がん研究機関(IARC)はPM2.5について肺がんなどの発がん性を有すると初めて認定し、5段階のリスク評価で最も危険度が高い「グループ1」に分類した。IARCは2010年に大気汚染が原因の肺がんによる死者が世界全体で22万人に上ったと推計。特に大気汚染が深刻化している中国は早急な対策が必要だと指摘した。
これを受け、中国政府はようやく重い腰を上げ始めた。9月にはPM2.5削減の数値目標を盛り込んだ5カ年計画「大気汚染防止対策」を策定した。最も求められるのは排出源対策だが、自動車の排ガス規制に踏み込むと経済成長にブレーキがかかるため、どれだけ現実的に削減が進むかは疑問といわざるを得ない。
中国発のPM2.5は例年、偏西風に乗って黄砂とともに春に日本に飛来してきたが、九州などでは11月に入って注意情報が出された。今後、西日本を中心に大量のPM2.5が日本に飛来してくるのは確実で、来年の春先にピークを迎える。
●家庭用マスク市場、PM2.5対策の新製品が続々登場
市場調査会社の富士経済によると、13年の家庭用マスク(不織布タイプ)の市場はPM2.5対策の需要で前年比24%増の206億円となる見込みだ。
家庭用マスク市場はインフルエンザの流行や花粉の飛散量などの環境の変化、さらにマスコミの報道によって大きく変動する。近年では新型インフルエンザが世界的に流行した09年に340億円まで市場規模は膨らんだ。その後、市場規模は縮小したが、12年は年後半にインフルエンザやノロウイルスの流行があり、前年比8%増の166億円に達した。今年はPM2.5問題がクローズアップされ、再び高い伸びを示すのは確実だという。
1980年代に興和がフィルターを備えた製品「かぜと花粉両用マスク クリーンラインコーワ」を発売し、高機能化が図られた。03年にユニ・チャームから花粉症対策用の不織布タイプの使い捨てマスク「超立体マスク」が売り出され、需要が拡大した。
これまで家庭用マスクは花粉症、インフルエンザ、風邪予防対策が主流だったが、今年はPM2.5対策の高機能マスクが中心となった。関連メーカーはPM2.5対策の需要を見込んだ製品を投入している。