委員会設置会社をめぐっては、昨年の国会で社外取締役の設置義務化が議論されたほか、東京証券取引所の改正上場規則で社外取締役の導入が盛り込まれている。みずほFGの委員会設置会社移行はその流れを先取りするもので、3メガバンクでは初めてとなる。しかし、他の2メガの反応は冷ややかで、三井住友銀行の國部毅頭取は、「それぞれの銀行によって事情が違うので、すべての企業に一律に導入するのはいかがなものかと思っている」と慎重な姿勢を崩していない。
三菱UFJフィナンシャル・グループ、三井住友フィナンシャルグループの2メガが委員会設置会社への移行に慎重なのには理由がある。それは社外取締役の人選に困るためだ。メガバンクは日本のほとんどの有力企業と取引があり、独立性の高い社外取締役を選ぶのは難問。さらに、全員が社外取締役となる委員会設置会社となれば、人選が困難を極めることは必至。実は委員会設置会社を宣言したみずほFGも、この点で苦労している。最も悩むのは委員長の選任だ。
みずほFGは6月に委員会設置会社に移行するが、取締役会議長をはじめ、全員が社外となる指名委員会(取締役の人事案を作成)と報酬委員会、過半数が社外となる人事検討会議等に誰が選ばれるかが問われる。旧3行のバランスをとるような人選では金融庁の理解は得られないだろう。
みずほFGでは現在、野見山昭彦(JXホールディングス名誉顧問)、大橋光夫(昭和電工相談役)、安楽兼光(日産自動車出身)の3名が社外取締役を務めている。うち委員長に最有力視されているのは大橋氏だが、「大橋氏は取締役会で暴力団向け融資の資料を見られる立場にあったという点で難しいのではないか」との見方がある。このため日立製作所の川村隆会長の名前も挙がっているが、「経団連会長も断ったくらいだから、みずほFGの委員長就任を受けてはくれないだろう」(みずほFG関係者)と苦悩している。
●弁護士や公認会計士には朗報
一方、こうした委員会設置会社が増えることを歓迎しているのが、弁護士や公認会計士の面々である。社外取締役の招聘について企業側では「できれば企業経営に精通した人物が委員長に就いてほしいが、結局、大半が弁護士や公認会計士に落ち着くのではないか」と声が上がっているためだ。
弁護士、会計士の両業界では、資格試験で合格者を出し過ぎたため、仕事にあぶれる若手が増えている。新米弁護士が独立するまで、先輩弁護士の事務所に居候する「イソ弁」や、固定給なしで事務所を間借りする「ノキ弁」はよく知られた存在だが、今や「法律事務所に就職できずに、やむなく自宅を事務所に独立する“タク弁”や弁護士登録を先延ばしする新人もいる」(大手弁護士事務所)という。
同じく公認会計士も、企業の需要が伸びると見込んで大量合格させたものの、仕事にあぶれる者が急増。「証券取引等監視委員会で任期付きで大量採用して“箔付け”した後、企業に就職を斡旋してはどうか」(財務省OBの政治家)といったアイデアも飛び出す始末だ。
こうした苦境に喘ぐ弁護士、公認会計士にとって、社外取締役への招聘はまさに朗報。「社外取締役に選ばれるのは著名人だけ」(新人弁護士)だろうが、弁護士や公認会計士の需要が高まれば、玉突きで新人も救われる余地が生まれることは確かだ。
昨年末、コーポレートガバナンスを強化するための会社法改正案が閣議決定された。焦点となった上場企業への社外取締役の設置義務付けは経済界の反対を受け見送りになったが、法施行の2年後に再検討することになっている。また、金融機関については、バーゼル銀行監督委員会の要請もあり、いずれ委員会設置会社への移行は避けられないと見られている。みずほFGの委員会設置会社への移行は、まさに試金石といえそうだ。
(文=森岡英樹/金融ジャーナリスト)