●PBはなぜ安い?
前から不思議に思っていた。セブン-イレブンの「セブンプレミアム」、ファミリーマート「ファミリーマートコレクション」、イオン「トップバリュ」、西友「きほんのき」「みなさまのお墨付き」……。PBは各メーカーのブランド商品であるナショナルブランド(NB)商品に比べ、20~30円ほども安い。それなのに、味はNBとそれほど変わらない。日清食品やエースコック、亀田製菓など有名食品メーカーがつくる商品も多いのに、どうして安くできるのか?
PBが安い理由としては、流通側が発注するためメーカーの営業費が省けることや、計画生産で流通側が生産分をすべて買い取る契約となっているため、売れ残りのロスがないことなどが挙げられる。
しかし、安さの理由はそれだけだろうか? メーカーにシワ寄せがいっているのではないか。流通各社が力を入れるPBの裏側を覗いてみた。
●PBの話は「できない」
さっそくメーカーに取材を申し込むが、電話を掛けた45社中、取材に応じたのはわずか2社。ほとんどが「発注者との契約で他言しない約束になっているから、話せない」という。
そんな中、山陰地方の従業員30人の菓子メーカー社長が重い口を開いた。この会社では大手生活雑貨店のPB、大手コンビニチェーン、私鉄系大手スーパーのPBを製造している。NBは1種のみで、現在売り上げの9割をPBが占めている。社長はこう切り出した。
「PBは怖い。大手と組んで当たれば大きな金になるから、『中毒』になる。でも、うちみたいな零細企業が大手1社のPBに依存したら、契約を切られた時に路頭に迷う。だから、明日切られてもいいように、いつも心の準備はしている」
できることなら、大手1社との契約で600万の儲けを出すよりも、3社と契約し、1社で200万ずつ儲けたい……と社長は本音を打ち明ける。
●PBは、どうやってつくられているの?
そもそもPBは、どのようにしてつくられているのか。流通側とメーカーが一つのチームをつくり、テーブルを囲んでアイディアを出し合う。これまではそんなイメージを持っていたが、実際は違うようだ。まず発売の1年以上前に流通側から、「来季こういう商品をやるからコンペに出さないか」と打診が来る。メーカーがまず「たたき台」をつくり、これに流通側が細かな注文を付けて、商品化されるという流れだ。商品のリニューアルは春夏、秋冬の年2回。次のシーズンも流通側から声がかかるかどうかは、その時になってみないとわからないという。
メーカーにとって、PBをつくるメリットはどこにあるのだろう?
その一つは、消費者の声を直接聞けることだという。さらには自社製品の品質向上にも、PBは一役買っているという。
「食品メーカーは自社だけでやっていると慣れが出て、いつのまにかグレーゾーンに踏み込む危険性を持っている。『白い恋人』の石屋製菓や赤福の事件を見てもそう。PBを受注することで、トップクラスの小売業が求める高い安全基準と品質管理の要求を満たそうという緊張感が社内に生まれる。それが、自社商品の品質を向上させるためにはプラスに働いていると思う」(前出のメーカー社長)
こうした一方でデメリットもある。流通側がメーカーに求める品質管理の水準は高く、2008年に「毒入り餃子事件」が起こって以降、そのハードルはさらに上がった。製造工場は年に一度、第三者機関の立ち入り検査を受け、証明書を提出しなければ契約が更新できない仕組みになっている。もちろん製品の原産国、取引先工場の製造過程なども詳細に報告しなければならない。一回の工場検査にかかる費用は10~30万。驚いたことに、この費用は流通側ではなく、メーカーの負担だという。零細企業にとっては重い負担だ。
●「安い」「安全」は両立可能?
深刻な問題は、ほかにもある。廉価のPBといっても「食品」であるために、消費者からの要求は厳しい。このため、ひとたび事故が起こると大きなトラブルとなる。
4年前には、こんなことがあった。100円の菓子の中に、髪の毛が1本紛れ込む事故があった。店から「客が激怒している」と連絡が入り、前出のメーカー社長は急きょ東京へ呼び出された。