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牧田幸裕「得点力を上げるための思考再構築」(11月14日)

ユニクロ柳井社長の非情さ、なぜ真っ当?事業の“ご臨終”=撤退基準明確化の重要性

文=牧田幸裕/信州大学学術研究院(社会科学系)准教授

●非情=真っ当?

 では、どうすれば社長や事業担当リーダーが撤退基準を定められるようになるのか。ひとつの参考例が、ユニクロを展開するファーストリテイリングを率いる柳井正社長のケースだ。柳井社長に対してはさまざまな評価があり、名経営者としての評価がある一方で、「冷徹」「非情」との評価もある。柳井社長は言う。

「事業を始める時には、僕はいつも最終形を考えるようにしている。(中略)誤解をおそれずに言えば、到達できるかどうかはあまり問題ではないのだ」
「泳げないものは沈めばいい」

 後者は、マイクロソフト創業者のビル・ゲイツ氏の言葉を柳井社長が引用したものだ。これを以て、「非情である」という評価がなされていたが、筆者は至極真っ当な見解だと考える。

 柳井社長は、事業を始める時に、ご臨終の姿が見えている。だから撤退の判断が早い。1997年にスポーツウェアとシューズの店を「スポクロ」として出店したが、出店から1年も経たずに中止を決定した。ユニクロとの違いを出せなかった、つまりユニクロに対する差別化が機能しなかったからである。

 フリースの大成功を収めた後、2001年9月には英国出店を果たした。英国内に21店舗出店したが、03年3月には16店舗を閉鎖。初出店から18カ月での判断である。永田農法での差別化を目指し野菜の流通販売にチャレンジしたのは02年。しかし、04年3月には売上高が事業目標に届かず撤退。

 このように柳井社長は、とにかく撤退が早い。それは、ご臨終の基準が明確だからだ。日本企業の経営陣は、柳井社長の判断から学ぶところは多いはずだ。そもそも事業の目標は、次から次へと差別化を実現することである。それが企業の競争優位性を定義するからだ。そのためには、企業の中で少なくとも社長と事業担当リーダーは、事業レベルであれ製品・サービスレベルであれ、ご臨終の基準を明確にしなければならない。感情に流されてはいけない。

 個人であれ事業であれ、ハレの門出に終わりの姿を考えるというのは、ちょっと奇妙な気もするかもしれないが、これはリスクマネジメントであり、ポートフォリオをうまく回していくために必要な考え方である。

 ロッテの田中投手には、もちろんプロ野球の世界で活躍してほしいが、とてもクレバーな考え方を持っていると感心させられた。
(文=牧田幸裕/信州大学学術研究院(社会科学系)准教授)

牧田幸裕/信州大学大学院 経済・社会政策科学研究科 准教授

牧田幸裕/信州大学大学院 経済・社会政策科学研究科 准教授

京都大学経済学部卒業、京都大学大学院経済学研究科修了。ハーバード大学経営大学院エグゼクティブ・プログラム(GCPCL)修了。アクセンチュア戦略グループ、サイエント、ICGなど外資系企業のディレクター、ヴァイスプレジデントを歴任。2003年、日本IBM(旧IBMビジネスコンサルティングサービス)へ移籍。インダストリアル事業本部クライアント・パートナー。主にエレクトロニクス業界、消費財業界を担当。IBMでは4期連続最優秀インストラクター。2006年、信州大学大学院 経済・社会政策科学研究科助教授。2007年、信州大学大学院 経済・社会政策科学研究科准教授。2012年、青山学院大学大学院 国際マネジメント研究科 非常勤講師。2016年、長野市産業振興審議会 副会長。2018年7月より現職。
牧田 幸裕|note

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