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テレ東・不適切放送の問題、各局「警察密着」番組への影響に差…日テレは大転換

文=Business Journal編集部、協力=水島宏明/上智大学文学部新聞学科教授
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テレビ東京が所在する六本木グランドタワー(「Wikipedia」より/稲妻ノ歯鯨)

 テレビ東京が昨年(2023年)3月に放送した『激録・警察密着24時!!』で不適切な内容があった問題。コピー商品を販売する業者が人気アニメ『鬼滅の刃』を連想させる不正な類似品を販売していたとして、愛知県警が不正競争防止法違反容疑で逮捕するまでを密着したものだが、逮捕された4人のうち3人はその後に不起訴になった事実を、一部スタッフは認識していたにもかかわらず番組内で伝えていなかった。警察署内での捜査員の会議シーンについて、事後に捜査員が演じて撮影したものであるにもかかわらず、再現シーンである旨を明示していなかった。また、この事業者がアニメのキャラクターを描いた商品の制作を中国の事業者に発注していたとナレーションで説明していたが、事実の有無を確認していなかった。元日本テレビ・ディレクター兼解説キャスターで上智大学文学部新聞学科教授の水島宏明氏は「警察権力とメディアが一体化した『やらせ』ともいえる事案」と指摘する。

 事件の内容と番組の報道内容から当該販売事業者の人物が特定される可能性があるといい、事業者の4人の代理人はテレビ東京に対して「捏造を認め、真摯に謝罪すること」「訂正する文書をホームページに掲載すること」などを要求。テレ東は今年5月末、不適切な内容があったとして謝罪し、石川一郎社長、加藤正敏常務(当時)の報酬の一部返上と、今後は同番組を放送しないことを発表した。

 事業者の4人はテレ東による「名誉毀損」「人権侵害」があったとしてBPO(放送倫理・番組向上機構)の放送人権委員会に申し立てを行い、同委員会および放送倫理検証委員会で現在もそれぞれ審理と審議が続いている。番組では事業者の人物が逮捕される直前に抵抗する様子が放送され、「逆ギレ」「被害者面」「人気キャラクラーに便乗して荒稼ぎ」といったテロップやナレーションが使われており、4人は名誉を著しく毀損されたと主張している。 

 BPOが示す審査の結論は、テレビ各局がこうした番組を放送するにあたっての指針になっていく可能性が高い。各局は「警察24時」モノを相変わらず放送しているが、テレ東の不祥事を受けて影響はみられるのだろうか。以下、水島氏に解説してもらう。

“期首期末番組”

「警察24時」モノはテレビ業界では“期首期末番組”と呼ばれ、ドラマなどの四半期ごとのクールが終了したタイミングを埋める単発の特別番組として放送することが多い。テレビ東京の問題で同社の社長ら経営陣が謝罪した後も、この傾向は基本的には変わっていない。パトカー内などに設置した小型カメラの映像をいくつも駆使し、ディレクターが小型カメラで撮影した警察官たちの映像を基に2~5時間の特番として放送している。今年11~12月にかけても相次いで放送されたが、テレビ東京の問題が明らかになって以降では、内容に変化はあったのだろうか。各局の番組を検証してみた。

テレビ朝日

 テレビ朝日は11月22日(金)に3時間4分の『列島警察捜査網 THE追跡 2024秋の事件簿』を放送した。埼玉県警や静岡県警などの警察官たちが街中をパトロールしながら、あやしいと思った人物に職務質問する様子に密着した。酔っ払い、不法残留の外国人、覚醒剤や大麻を所持・利用する男たちの生態が分かる。新潟県警では無人の古着屋を狙う窃盗犯を追う警官たちに密着した。パトカーの内部を撮影した車載カメラの映像や店舗などの防犯カメラの映像が大半だ。静岡県警は外国人観光客向けに白タクを営業する男などを摘発する。三重県警はアルミの角材やフェンスなどを大量に盗み出す男たちを摘発する。容疑者側と、それを追跡する警察官側との攻防をドラマ仕立てで再現している。登場する犯罪は窃盗、無免許運転、麻薬所持、車上狙いなどが多い。今多くの国民にとって不安の種になっている特殊詐欺事件や闇バイトなどの関与が明るみに出ている広域強盗事件などの凶悪犯罪はない。終盤は宮城県警察学校の初任科生たちの奮闘を取材していた。犯罪捜査の進展を確認しながら犯罪者側の生態を映し出していくバラエティー要素が強い番組になっていた。従来型の「警察24時」モノ番組だが、特に目新しいものはなかった。制作会社はTAIGA PRO。

日本テレビ

 日本テレビは12月4日(水)、従来に比べると報道的な要素の濃い1時間54分の『警察魂2024 悪い奴らは許さない!闇バイトを操る凶悪犯罪集団VS超スゴ腕捜査員』を放送した。テレビ東京の問題を教訓にして、かなり丁寧に制作しようという姿勢が見てとれた。警官が逮捕するシーンが次々に出てくるのだが、その都度、「暴行容疑で現行犯逮捕『暴行罪』2年以下の懲役または30万円以下の罰金等 その後 起訴猶予」「詐欺未遂容疑で緊急逮捕 『詐欺未遂罪』10年以下の懲役 その後 起訴」などと、その後、起訴されたか起訴猶予になったかどうかも詳しくテロップで表示していた。

 真冬の札幌・ススキノで酔っ払いの対応に追われる警察官たちの姿から始まる。『news zero』でキャスターを務める藤井貴彦アナがメインの司会を務めていて、報道番組として見せようとしている印象が強い。警察密着番組ではあまり登場しない特殊詐欺や闇バイト、いわゆるトクリュウ=匿名・流動型犯罪グループと呼ばれる集団の犯罪、さらにストーカー男による被害など、今日的な犯罪の捜査にかなり時間を割いていたのも特徴だった。ニュース番組で深刻な事件として報じられるような犯罪をより多く特集していた。

 特殊詐欺をめぐっては、実の孫を名乗る男から「上司の息子に金を渡してほしい」と言われた80代の女性が、警察に頼まれて上司の息子役の男(いわゆる「受け子」)に金を渡す場面を隠しカメラで撮影するなど、現在の犯罪現場を映像にしていて見応えがあるものだった。札幌のススキノ交番の女性警官への取材では、若い女性がオーバードーズで救急車で運ばれる場面も出てきた。自殺願望がある若者たちへの心のケアなど今日的な課題を提示し、相談窓口も示して放送していた。その意味ではテレビ東京の事件を経て、番組のスタイルを大きく変えたのが日本テレビだということができる。制作会社はディレクターズ東京。

フジテレビ

 フジテレビは夕方のニュース番組『Live News it!』のなかで時折、警察密着モノを放送している。12月16日(月)には特集「トラブル続出!年末の新宿・歌舞伎町」(22分程度)を放送していた。酔っ払い、外国人旅行者、出会い系アプリで知り合った女にぼったくりバーに連れていかれた男性などのリアルな音声も放送されていて、社会の裏側を見せてくれるという作りになってはいたが、従来型の「警察24時」モノという以上の印象はなかった。

TBS

 TBSは12月23日(月)、5時間におよぶ『最前線!密着警察24時 年末年始特別警戒SP』(4時間57分)を放送した。冒頭は千葉中央署の警官が住宅街でリードから離れた犬を「わんきゃっちゃー」という捕獲道具で捕獲を試みるという場面から始まる。さらに京都の白バイ隊員の交通違反取締り、電動キックボードの酒気帯び運転などの取締りなどの後で、沖縄県警がコインランドリーで下半身裸の男について通報を受け駆けつけるといった珍事に遭遇する。「パンツは2枚買いなさい」「100均でも売っている」などと警官が注意する場面も出てくる。こうしたハプニング、社会にはいろいろな人間が生きていることがわかるし、人間くさいシーンといえなくもないが、5時間もかけて放送することなのかという疑問を感じた。この他、自販機荒らしの容疑者を張りこみ捜査などで捕まえるシーンなども出てくるが、前述の日本テレビの番組に出てきた今日的な犯罪と比べると、スケールが小さいものばかりだった。5時間もかけて報道したのに、残念ながら内容はあまり深いとはいいがたいものだった。制作会社はSOLIS produce。

 こうやって各局の「警察24時」番組を検証してみると、テレビ東京の不祥事発覚以降、日本テレビのように「(その後に起訴・不起訴になるかどうかの情報を入れるように)より丁寧な番組制作」や「(特殊詐欺や若者の自殺願望など)より報道的な意味がある番組制作」へと舵を切るテレビ局もある一方で、相変わらず警察官に密着しているだけで従来と変わらない局(TBS、フジ、テレ朝)があるということが見てとれた。逮捕で終わりではなく、その後に不起訴になるケースもあることを考えると、日本テレビのようにその後の処分まで見届けた上で放送することが本来は望ましい。加えていえば、報道番組として、きちんと内容がある警察密着ドキュメンタリーになっているのかを精査して放送するということもしっかりやってほしい。

 テレビ東京の問題を審理するBPOの各委員会による結論は、2025年前半の早い時期に出るだろう。その時に合わせて、この「警察24時」モノというドキュメンタリーのジャンルがもっと視聴者にとってもためになる番組になるように、各テレビ局が番組の品質を向上させることに期待したい。

(文=Business Journal編集部、協力=水島宏明/上智大学文学部新聞学科教授)

水島宏明/上智大学文学部新聞学科教授

水島宏明/上智大学文学部新聞学科教授

1957年生まれ。東大卒。札幌テレビで生活保護の矛盾を突くドキュメンタリー「母さんが死んだ」や准看護婦制度の問題点を問う「天使の矛盾」を制作。ロンドン、ベルリン特派員を歴任。日本テレビで「NNNドキュメント」ディレクターと「ズームイン!」解説キャスターを兼務。「ネットカフェ難民」の名づけ親として貧困問題や環境・原子力のドキュメンタリーを制作。芸術選奨・文部科学大臣賞受賞。2012年から法政大学社会学部教授。2016年から上智大学文学部新聞学科教授(報道論)。著書に『内側から見たテレビ やらせ・捏造・情報操作の構造』(朝日新書)、『想像力欠如社会』(弘文堂)、『メディアは「貧困」をどう伝えたか:現場からの証言:年越し派遣村からコロナ貧困まで』(同時代社)など多数。
上智大学 水島宏明教授プロフィールページ

Twitter:@hiroakimizushim

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