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日テレ、スタジオジブリの子会社化で数百億円の売上増を達成できる可能性あり

協力=鈴木祐司/次世代メディア研究所代表
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(c)次世代メディア研究所

 先週8月30日、日本テレビ系「金曜ロードショー」では『天空の城ラピュタ』が放送された。日テレで初めて放送されてから36年で19回目の放送である。それでも2024年に放送された「金曜ロードショー」のなかで個人視聴率は1位。まさにジブリ映画の底力を見せつける快挙だった。日本テレビは昨秋、スタジオジブリを子会社化した。株の取得額は公表されなかったが、おそらく数百億円にのぼるだろう。今後、日テレはスタジオジブリのコンテンツおよび制作能力を活用し、投資以上の売上増、やり方によっては数百億円規模の売上増を果たす可能性があると、次世代メディア研究所代表の鈴木祐司氏は指摘する。“日テレ×ジブリ”が映像ビジネスをどう発展させる可能性があるのか。鈴木氏に解説してもらう。

「金曜ロードショー」のベスト5

 ジブリ映画は『風の谷のナウシカ』(1984)から数えると計27作品が制作されている。そのうち、2024年は8月までに「金曜ロードショー」で6作品が放送された。昨年は1年間で5本だったので、子会社化でジブリ作品の活用が活発になった可能性がある。

 今年8月までの「金曜ロードショー」個人視聴率ベスト5は以下の通り。

1位:『天空の城ラピュタ』7.5%
2位:『千と千尋の神隠し』7.1%
3位:『すずめの戸締まり』7.0%
4位:『となりのトトロ』6.7%
5位:『名探偵コナン黒鉄の魚影(サブマリン)』6.3%
(視聴率はスイッチメディア「TVAL」による/以下同)

 冒頭の図のとおり、個人全体以外でもジブリ作品は好調だ。コア層・女子中高生・中高生の親などでもジブリ作品が1位、唯一Z世代では『すずめの戸締まり』が首位。ベスト5で比べると、ほとんどの層でジブリが3作を占めている。

 日テレのスタジオジブリへの出資比率は42.3%。ジブリ作品の放映料は、連結決算上は4割が日テレに還流する計算だ。つまり日テレは今回の買収により、より安価に放送でき、高い視聴率をとることで営業利益が増える構造となった。テレビ離れなどで視聴率は低下傾向にあるが、日テレは勝利の方程式を1つ得たことになる。

『天空の城ラピュタ』の特殊性

『天空の城ラピュタ』は特殊な事情を持つ。X(旧Twitter)上では、作品タイトルより「バルス」というキーワードが3倍以上の23万回超、投稿された(Yahoo!リアルタイム検索調べ)。ラピュタが「バルス」という呪文で崩壊する瞬間が山場となる物語だが、主人公たちだけでなく、視聴者などもその言葉をつぶやく“バルス祭り”が10年以上前から放送日に盛り上がり続けているのである。

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 結果として同作の放送時間中の視聴率の推移は右肩上がりとなる。個人全体では放送開始から4%ほど上がったが、コア層だと5%ほど。つまり若年層ほど番組途中から見始める人が多いのである。明らかにSNS上の“バルス祭り”が放送に好影響を与えている。

 実は同作品は「金曜ロードショー」では14回目の放送から視聴率が上昇した。03年の9回目の放送以降、13回目までじりじり数字は下がっていた。ところが13年に14回目の放送で、世帯視聴率で3%ほど跳ね上がった。SNSの普及で“バルス祭り”が起こり始めたのである。この時は放送中に6%ほど上昇していた。その後、日テレは意識的に“バルス祭り”を仕掛けたこともあるくらいだった。

 この“バルス祭り”は一つの教訓だろう。テレビ局の意図が見え見えではSNS上の反応は安易に動かないが、必然性のある流れを作ると視聴率は上昇することがある。これまでのジブリ映画の27作品を分析し直すと、そういう妙案が浮かび上がる可能性がある。

“ジブリ×〇〇”の可能性

 数百億円の投資は、今後どう大化けするのだろうか。日テレの24年度第1四半期の決算を見ると、日テレ本体は不調である。22~23年度も日テレ本体は減収減益だった。ところがアニメ関連だけが、にわかに大幅な増収増益に転じた。最大の要因はジブリの子会社化だろう。

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 今後、放送以外でジブリを活用すれば、より大きな収益を出せるはずだ。例えば日テレは子会社のHJホールディングスを通じてSVOD事業「Hulu」を展開しているが、24年度第1四半期は減収減益だ。NetflixやU-NEXTなど競合相手がひしめくなか、苦戦を強いられている可能性がある。

 そこで国内限定でHuluがジブリ作品を配信したらどうなるか。十万単位で加入者数が増え、十億円単位の増収が見込める。今年、『千と千尋の神隠し』以来21年ぶりに『君たちはどう生きるか』が米アカデミー賞の長編アニメ賞を獲得したように、ジブリ作品は海外展開も十分可能だ。期間と作品を限定したとしても、NetflixやDisney+などから十億円単位の配信権料が得られる。いや、やり方次第では百億円単位となるかもしれない。

 ほかにもジブリパークでの新たな展開も考えられる。現状はジブリ作品の世界観を優先した空間となっているが、デジタルテクノロジーを駆使して来園者が作品のキャラクターと一緒に写る画像をつくったり、物語を追体験できるコースをつくるなど、サービスはまだまだ開発の余地がある。東京ディズニーリゾートやユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)に負けない日本ならではのテーマパークに進化させれば、インバウンド需要も含めて大きなビジネスに発展するはずだ。

最大の課題はNext One

 そして今後の最大の課題は、ジブリならではの作品の制作だ。スタジオジブリの社長に日テレの役員が就任した以上、日テレの制作力も動員した新しい映画製作が視野に入っているはずだ。ただし宮崎駿監督の作風や哲学と日テレのやり方は当然違う。そこで軋轢が生じてなかなか前に進めないとなると、両者のコラボが活かせずに終わってしまう。それでも83歳の宮崎監督が今後何本も新たな作品を生み出すのは難しいはずだ。ここは新たな才能を見いだし、いかにジブリ初期の頃のように10年で10作近い映画をつくれるかだろう。

 その際に、新たな視点も求められる。優れた映画を作ることは当然だが、今後はそれ以外への配慮と努力が重要になってくる。宮崎監督は以下の「映画つくり三原則」を掲げている。

「おもしろいこと」
「作るに値すること」
「お金が儲かること」

 言い換えれば、娯楽性・普遍性・事業性だ。この事業性は今後、視聴者の届けるインフラが多様化し、視聴形態も変わってきた以上、新しいテクノロジーも動員して多様、多数の人々の興味・ニーズに合うプレゼンができるか否かで明暗が分かれる。聞くところによると、宮崎監督はデジタルを快く思っていないようだ。しかしここを乗り越えないと、“日テレ×ジブリ”の積算効果は発揮できない。ジブリアニメの新たな地平が拓かれんことを願ってやまない。

(協力=鈴木祐司/次世代メディア研究所代表)

鈴木祐司/メディアアナリスト、次世代メディア研究所代表

鈴木祐司/メディアアナリスト、次世代メディア研究所代表

東京大学文学部卒業後にNHK入局。ドキュメンタリー番組などの制作の後、放送文化研究所、解説委員室、編成、Nスペ事務局を経て2014年より現職。メディアの送り手・コンテンツ・受け手がどう変化していくのかを取材・分析。特に既存メディアと新興メディアがどう連携していくのかに関心を持つ。代表作にテレビ60周年特集「1000人が考えるテレビ ミライ」、放送記念日特集「テレビ 60年目の問いかけ」など。オンラインフォーラムやヤフー個人でも発信中。
次世代メディア研究所のHP

Twitter:@ysgenko

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