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「サイゼリヤの味が落ちた」批判は的外れか…採算を度外視して低価格の尊さ

文=Business Journal編集部、協力=稲田俊輔/「エリックサウス」総料理長
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サイゼリヤ「柔らか青豆の温サラダ」

 人気イタリアンレストランチェーン「サイゼリヤ」の料理のクオリティが落ちているのではないかという声が一部で広まっている。サイゼリヤは値上げをしないと宣言していることで知られており、ここ数年は徐々にメニュー数が少なくなっていることがたびたび話題になるが、原材料・エネルギーコスト・人件費の高騰を受けて外食業界で値上げが進むなか、サイゼリヤが価格を維持するために料理の質を落としているということは考えられるのか。専門家の見解を交えて追ってみたい。

 国内に1038店舗、海外に531店舗(2024年8月期)を展開するサイゼリヤといえば、リーズナブルな価格でクオリティの高い料理を楽しめ、多くのファンを持つことで知られる。200円の「柔らか青豆の温サラダ」、300円の「辛味チキン」「ミラノ風ドリア」「ポップコーンシュリンプ」、400円の「ミートソースボロニア風」などお手頃な価格で味わえる人気メニューを抱えている。

 最近では全店舗でみると徐々にメニュー数が減りつつあることを残念がる声も出ている。ここ数年を振り返ると、「カリッとポテト」、フランスパン風の「ミニフィセル」、スパゲッティメニューの「大盛り」「おこさま」サイズ、トッピング用粉チーズ「ペコリーノ・ロマーノ」、「エビと野菜のトマトクリームリゾット」などが全店舗、もしくは一部エリアで販売終了となっている。

 外食チェーン関係者はいう。

「メニューの種類を増やすと、その分、仕入れる原材料の種類も増え、厨房の手間と負荷も増すため、回り回ってコスト増につながります。サイゼリヤは直近の通期決算は増収増益となっているものの、国内事業だけみると前年度こそ黒字を確保したものの赤字の年もあり、利益的には非常に厳しい状況が続いているため、コスト増につながる取り組みというのは、なかなかやりにくいでしょう。そうしたなかで利益を底上げするために、できるだけメニューの数を絞るという方向にいくのは仕方がないです。サイゼリヤはやはり圧倒的な安さという点が集客の武器となっているので、メニューの数について多少の不満が出たところで、それが原因で客数が減るということは考えにくいです。

 ちなみにサイゼリヤが『ミニフィセル』を一部エリアで終了させたのは、同じパン類の『フォッカチオ』があり、さらに販売数的に『フォッカチオ』のほうが多いため『ミニフィセル』はやめても問題ないと判断したのかもしれません。また、パスタの『大盛り』『おこさま』サイズについては、通常チェーン店ではあらかじめ一人前の単位で下調理・保管されたものを店舗の厨房で最終調理して出すので、『大盛り』や『おこさま』のサイズがあると中途半端な量の余り=ロスが生じてしまうという事情によるものかもしれません。『多めに食べたいなら2皿注文して、少量でよいなら通常サイズを注文して無理に全部食べずに残してくださいね』ということでしょう」(11月21日付当サイト記事より)

高校生たちがお小遣いでもりもり食べている光景の尊さ

 料理の数だけでなく質の面も、ちょっとした“議論”を呼んでいる。一部メニューの味がマイナスの方向に変化しており、その背景に価格の値上げを避けるために原材料の質を落としているのではないかという声が相次いでいるのだ。「美味しさ」という曖昧な基準に関する事柄であるため、評価は難しいところだが、11月28日に開催されたサイゼリヤの株主総会に出席した、電子書籍『株主総会に行こう! すずきの潜入ドキュメント』の著者でグラフVTuberのX(旧Twitter)アカウント名「すずき」氏(@michsuzu)は、この点について質問を受けた際の松谷秀治社長の説明をポスト。それによれば、松谷社長は、品質は逆に上げているため粗利益率が低下していると説明していたという。

 飲食プロデューサーで南インド料理専門店「エリックサウス」総料理長の稲田俊輔氏はこのように分析する。

「飲食店における商品は、常に少しずつブラッシュアップされるものです。本来ならそれは『お客さんには気付かれないように、時代に合わせて少しずつおいしくなっていく』のが良しとされるわけですが、昨今では『時代に合わせて』コストカットのために味や量を落としてしまっているケースも多々見られるのは事実。サイゼリヤのケースがそれに当たるかどうかは何とも言えませんが、店側が良かれと思って行った変更が顧客側にとっては好ましくないものであったり、気付かれない程度だったはずの変更が、注意深く食べる方や来店頻度の特に高い方には気付かれてしまうというのも、飲食店ではよくあることです。

 サイゼリヤの場合は特に調理や味付けが極めてシンプルなため、調理工程のほとんどがセントラルキッチンであっても、わずかなブレが味の変化に繋がりやすい面は昔からあったと思います。店ごとに、時間帯ごとに、そしておそらくは作る人ごとに現れるその微妙なブレも楽しめる、あるいは許容できるか否か、という話でもあるのかもしれません。

 サイゼリヤならではの看板商品としては、昔も今も『ミラノ風ドリア』『辛味チキン』『小海老のサラダ』など、どれもイタリアンとはあまり関係のないメニューです。その一方でサイゼリヤは、半ばコスト度外視で、より本格的なイタリアの味をメニューの中に散りばめ続けてもきました。コロナ直前の時代は特にそれが意識的になされており、中級クラス以上のイタリア料理専門店でもなかなか見かけないような本格志向の商品が、季節メニューとして次々に登場し、それは時にグランドメニューにも昇格することがありました。当時は一部の『食マニア』がそれを目ざとく見つけてネットで拡散するような、言うなれば『サイゼリヤとマニアの蜜月時代』でもありました。

 昨今では食材価格の高騰に伴い、多くの飲食店が値上げを余儀なくされています。そんななか、サイゼリヤは価格の据え置きという英断を行いました。そうなると必然、あらゆる面での効率化が必要となります。メニューの(実質的な)縮小もその大事なひとつです。看板商品を中心に、誰からでも好まれやすい商品が生き残り、当たるか当たらないかわからない(そして大当たりすることはまずない)マニアックな商品は真っ先に削られたということになります。そしてもちろん、単純にハイコストな食材やオペレーションもカットされました。ここでマニア層は黙ってサイゼリヤを去りました。全来客数からすれば微々たるパーセンテージなので、そのこと自体は大きな問題ではありません。しかしそれはマニアだけの問題にはとどまりませんでした。多くの人々が、メニューの簡素化を嘆いているのは確かです。

 ただしこの点に関しては、先日このような印象深い意見も目にしました。

『サイゼリヤのメニューがつまらなくなったと言われており、それはその通りかもしれないが、高校生たちが自分たちのお小遣いで気軽にパスタやドリアやチキンをもりもり食べている光景の尊さに比べたら、それはあまりにも些細なことである』

 これはある意味、極めて本質的だと思います。『値上げしても良いから、かつてのサイゼリヤに戻って欲しい』という意見はよく目にしますが、サイレントマジョリティは今の価格を支持していると思われます。支持というより、もはやサイゼリヤは社会インフラです。なのでこれは、大袈裟かもしれませんが、社会全体の問題です。経済回復に成功して社会に少しでもゆとりが生まれない限り、サイゼリヤは今の路線を守り抜くしかないのかもしれません。ただしそれは、ウォンツは満たすがニーズは創出しない経営戦略ということでもあり、それが長く続きすぎてしまうのはいささか危険な面もあるのではないでしょうか」

値上げすることで目立った客離れが起きてしまう懸念

 外食チェーン業界関係者はいう。

「外食チェーンではさまざまな事情で顧客が気がつかないレベルで少しずつメニューの変更が重ねられていくものですが、サイゼリヤの料理の質に関していえば、個人的には、総じて小さな変化はあるものの質が落ちたということは感じられません。原材料や調理工程が同じでも、厨房スタッフによって料理の仕上がりというのは変わるものなので、同一チェーンでも『A店よりB店のほうが美味しい』ということは起こりますし、同一店舗で厨房スタッフが変わったことで味が変わるということもあります。

 また、よく『値上げしてもよいからクオリティを上げてほしい』『メニュー数を増やしてほしい』といった声がみられますが、そうした意見がマジョリティかといわれれば、そういうことはないでしょう。サイゼリヤの大きな優位点は『家族やグループで行っても、安くお腹いっぱいになれる』という点なので、値上げすることで目立った客離れが起きてしまう懸念は想像以上に大きいかもしれません。そのリスクを何よりもサイゼリヤ自身が認識しているからこそ、現在の方針を貫いているのだと思われます」

(文=Business Journal編集部、協力=稲田俊輔/「エリックサウス」総料理長)

稲田俊輔/「エリックサウス」総料理長

稲田俊輔/「エリックサウス」総料理長

料理人・飲食店プロデューサー。鹿児島県生まれ。京都大学卒業後、飲料メーカー勤務を経て円相フードサービスの設立に参加。和食、ビストロ、インド料理など、幅広いジャンルの飲食店の展開に尽力する。2011年、東京駅八重洲地下街に南インド料理店「エリックサウス」を開店。現在は全店のメニュー監修やレシピ開発を中心に、業態開発や店舗プロデュースを手掛けている。近著は『食いしん坊のお悩み相談』(リトル・モア)。

Twitter:@inadashunsuke

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