経済の平均成長率が4%程度あり、なおかつ花粉症患者が少なかった1980年代までならこうした要因が個人消費に悪影響をもたらすことは想定しにくかっただろう。しかし、90年代以降になるとバブル崩壊により経済の平均成長率が1~2%程度に低下する一方、花粉症患者も増加しているため、花粉の大量飛散が個人消費に悪影響を及ぼしていると考えられる。つまり、昨年の猛暑により花粉が大量飛散することになれば、日本経済に悪影響が及ぶことは否定できないだろう。
昨夏の猛暑により1-3月期の家計消費は平年比で▲1.0%減少
昨年の猛暑による花粉の大量飛散によって、今年の日本経済にはどの程度の影響が生じるだろうか。総務省の家計調査を用いて、過去のデータから前年7-9月の平均気温と1-3月の個人消費の関係式を作成し試算を行ってみた(注1)。すると、前年7-9月の平均気温が1℃上昇すると、翌1-3月の実質家計消費支出が▲0.9%押し下げられる関係があることがわかる(資料4)。
したがって、昨年夏の平均気温が平年より1.0℃上昇したので、今年1-3月の実質家計消費は平年に比べ▲0.9%×1.0℃=▲1.0%(▲5,691億円)程度押し下げられる可能性がある。そして、消費現に伴う輸入の減少なども加味すれば、同時期の実質GDPは同▲0.3%(▲3,464億円)程度減少する計算になる(資料4)。同様に前年比への影響を見れば、昨年夏の平均気温が前年より+0.4℃上昇したため、今年1-3月期の実質家計消費は前年比で▲0.9%×0.4℃=▲0.3%、実質GDPが同▲0.1%(▲1,175億円)押し下げられる計算になる。
データ数が十分でなくこの推計結果は幅を持ってみる必要があるが、花粉の大量飛散は身体だけでなく、日本経済にもダメージを与える可能性があるといえよう。また、今春の花粉大量飛散により新規の花粉症患者が増加すれば、悪影響がさらに拡大する可能性もある。
以上を勘案すれば、今後の景気動向次第では、減速感が漂う日本経済に、花粉の大量飛散が思わぬダメージを与える可能性も否定できないだろう。特に足元では、値上げや消費マインド統計の悪化等マイナスの材料が目立っているが、今後の個人消費の動向を見通す上では花粉の大量飛散といったリスクも潜んでいることには注意が必要であろう。
(文=永濱利廣/第一生命経済研究所経済調査部首席エコノミスト)