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野村証券「外し」拡大…“最強の営業部隊”凋落で巨額赤字、情報漏洩や詐欺関与疑惑も

文=編集部
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野村ホールディングス本社(「Wikipedia」より)

 東京証券取引所の市場区分見直しの情報漏洩問題で、金融庁から業務改善命令を受けていた野村ホールディングス(HD)と野村証券は6月3日、業務改善報告書を金融庁に提出した。

 漏洩事件の経緯は以下の通り。

 東証は2018年10月、市場再編に向けた非公開の有識者懇談会を設置。懇談会のメンバーに選ばれた野村総合研究所の大崎貞和フェローが東証1部に相当する新市場の上場基準となる企業の時価総額の目安について、内部情報を野村証券に漏らした。野村証券の営業社員らは、市場関係者の間で関心が高かったこの情報を顧客の投資家に伝えた。

 金融庁は「市場の依頼を損なう悪質な行為」と判断した。12年にもインサイダー情報の漏洩で業務改善命令を受けたにもかかわらず、営業部員が入手した重大情報を再び顧客に漏らしたことを重くみて、処分に踏み切った。

 野村HDの永井浩二・グループCEO(最高経営責任者)は5月24日、記者会見し、「情報の不適切な扱いがあった。深くお詫びします」と謝罪した。経営責任を明確にするため、永井氏は月額報酬の30%を3カ月返上。子会社、野村証券の森田敏夫社長ら幹部6人も減給処分とした。

 情報漏洩に関係した社員が所属していた野村証券の「グローバル・マーケッツ営業二部」は、7月1日付で廃止した。

 当初、野村HDは、問題なしと見ていたフシがある。同社の特別調査チームが実施したアンケート調査では、時価総額基準の漏洩について、「重要事実または法人関係情報に該当しないから問題ない」との声があったという。

 インサイダー取引規制が想定しているのは、業績やTOB(株式公開買い付け)といった個別企業に関する重要情報の悪用だ。

 だが、東証の市場区分も個別銘柄の株価に大きな影響を与える。特定の投資家だけが、その内部情報を利用して取引に動けば、市場の公平性や公正性が疑われる。

 今回の情報漏洩は、法的にはインサイダー取引には当たらないとされている。それでも金融庁が「インサイダーに匹敵する」と断定して処分に踏み切ったのは、7年前の「増資インサイダー問題」があるからだ。

 12年、主幹事証券だった企業などの公募増資に関する情報漏洩が発覚し、業務改善命令を受けた。増資インサイダーも、当時は法令には違反しておらず、構図が今回と似通っているとの指摘がある。

 この時、引責辞任した財務出身の渡部賢一社長に代わってトップの座に就いたのが、営業部門出身の永井氏だった。7年前の就任会見で永井氏は「会社をつくりかえる」と力説したが、「法令違反さえしていなければ、何をやってもいい」という企業風土は、少しも変わっていなかったのかもしれない。

 金融庁の今回の処分は、規範を重視し“株屋体質”からの脱却を迫るものとなった。

「野村外し」が広がる

 金融庁の業務改善命令を受け、産業界から「野村外し」の動きが加速した。財務省は、政府が保有する日本郵政株の第3次売却について、大和証券やゴールドマン・サックス証券など6社を主幹事証券に選定、野村証券は落選した。

 政府は日本郵政株の57%を保有しているが、第3次売却で保有比率を3分の1超にまで下げる。今回の売り出しは1兆2000億円を超える。

“敵失”でシェア拡大のチャンスとなった同業他社からも「この規模の売り出しを野村証券なしでこなせるのか」と、懸念する声が出ている。1次、2次の売り出しで野村証券は5000億円強を引き受けた実績があるからだ。

 日本郵政株第3次売り出し前にも日本郵政が保有する、かんぽ生命保険株の売り出しの主幹事から野村証券が外れた。全体を仕切るグローバル・コーディネーター(GC)は、大和証券、三菱UFJモルガン・スタンレー証券、JPモルガン証券の3社。GCに次ぐ主幹事にみずほ証券とメルリリンチ・インターナショナルを選んだ。

 野村証券は15年の日本郵政、かんぽ生命、ゆうちょ銀行のグループ3社の同時上場や、17年の郵政株の2次売り出しで、いずれもGCに入った実績がある。

 19年1月、かんぽ生命が初めて劣後債を発行した際の引受先は大和証券、みずほ証券、三菱UFJモルガン・スタンレー証券の3社で、ここでも野村証券は外れた。そして今回の日本郵政株の第3次売り出しで“3連敗”となったわけだ。

 社債発行の主幹事からも「野村外し」が続出した。コマツ、大阪ガス、ホンダの金融子会社であるホンダファイナンス、東京メトロ、不二製油グループ本社が、社債発行の主幹事から野村証券を外した。

 ここ数年、社債引受額で、みずほ証券、野村証券、三菱UFJモルガン・スタンレーの3証券がトップ争いを続けてきたが、「野村外し」が広がると社債市場の勢力地図が変わることになる。

最強を誇った営業部隊がネット証券に浸食される

 野村証券は6月5日、全国156の本支店・営業所のうち首都圏と大阪・名古屋周辺の25支店を廃止し、それぞれ近隣の規模の大きい支店に統合する計画を発表した。8月5日から9月9日にかけて順次、統廃合を進める。

 今回の三大都市圏での支店統廃合によって、年間14億円のコスト削減効果を見込んでいる。25店舗で働く約700人の従業員は近隣の店舗などに異動する。

 野村HDは4月、国内全営業店の2割に当たる30店以上を統廃合する方針を明らかにしており、三大都市圏での支店の統廃合は、この一環である。

 野村証券の個人向け営業部門は、他社から最強と恐れられてきた。同社を業界不動の首位に押し上げる原動力が営業部隊だ。営業といういわば聖域に手をつけざるを得なくなったということだ。

 法人や海外が赤字でも、営業部門が下支えしてきた。この最強軍団の神通力が衰えてきたといえる。

 野村HDの19年3月期の連結最終損益(米国会計基準)は、1004億円の赤字に転落した。通期の赤字転落は09年3月期以来10年ぶり。08年の金融危機後に買収した米リーマン・ブラザーズののれん代を減損処理したことが大きく響いた。

 かつて国内の営業部門は4000億円台の営業収益を叩き出してきたが、19年3月期の収益は前期比18%減の3395億円。税前利益は52%減の495億円となり、金融危機当時の水準に逆戻りした。

 デジタル化対応で後手に回ったことが不振の一番の原因だ。20年前にインターネット証券会社が営業を開始。若い投資家を徐々に奪われていったが、店舗と人を軸に据えた対面販売の事業モデルを変えなかった。「野村証券がネット証券に敗れる日が来る」(金融アナリスト)と囁かれているほどだ。

 業務が低迷する最中、業務改善命令を受け、さらに「野村外し」が加速した。まさに、踏んだり蹴ったりである。

野村証券で詐欺疑惑

 野村証券は7月2日、元社員が退職後に同社顧客を含む複数の投資家に接触し、架空の投資商品を提案している疑いがあると発表した。この投資商品には実体がなく、詐欺の可能性がある。この取引をめぐっては、現役の社員がかかわっている可能性があるとして、社内調査を進めるともに、警察に相談している。

 野村証券の発表によると、この「元社員」とは、現在Foresight(フォーサイト)の代表取締役を務める中村成治氏のこと。同氏は慶應義塾大学法学部を卒業し14年4月、野村証券に入社。姫路支店に在籍し、16年9月に退職。

「当社を退職後に、当社のお客様を含む複数の投資家に接触し、架空の投資商品を提案している疑いがあることが判明しました。お客様への被害拡大防止の観点から、当社社員の関わりも含めて調査を進めるともに、警察への相談を行っております」

「中村成治氏の取り扱う投資商品は実体のないことが強く疑われます。同氏を紹介されたことのあるお客様や、同氏から取引を持ち掛けられたことのあるお客様など、不審に思われる点がございましたら、お取引部店もしくは本社お客様相談室へご連絡くださいますようお願い申し上げます」(野村証券の発表文)

【お客様相談室】
電話番号 0120-56-8604
受付時間 平日9:00~17:00(土・日・祝日・年末年始を除く)

 詐欺の舞台になったのは、野村証券船橋支店。詐欺の被害に遭ったのは大手化学メーカーの退職者で、野村証券の顧客だ。

 企業・情報サイト「OUTSIDERS REPORT」(6月18日付)によると、退職者の顧客のもとに昨年10月、船橋支店の営業担当者が訪れ、中村氏を紹介した。

<後に中村から送付された「融資斡旋スキーム商品概要」というペーパーには、「日本政策金融公庫の融資を使ったコンサルティングフィーを収入の基盤とする」として、1カ月の運用なら2~4%、3カ月なら6~12%の金利が得られる、と記されている>(「OUTSIDERS REPORT」記事より)

 現役の営業担当者の関与を含めて、大がかりな詐欺事件に発展しそうな雲行きとなっている。
(文=編集部)

【続報】
 架空の投資話で会社役員から560万円をだまし取ったとして、兵庫県警姫路署は8月22日、元野村證券社員の中村成治容疑者(29、神奈川県座間市)を詐欺容疑で逮捕した。会社役員は中村容疑者の野村證券時代の顧客。

 野村によると「複数の顧客が中村容疑者から詐欺被害に遭った」と訴えており、姫路署が関連を調べている。発表によるとこうだ。中村容疑者は4月25日、会社役員(49)が経営する姫路市の店舗で、会社役員に「上場会社の間違いない情報を得ている」などと言い、560万円を詐取した疑い。姫路署は認否を明らかにしていない。

 中村容疑者は2014年に野村に入社。16年9月に退職するまで姫路支店に在籍していたという。中村容疑者と連絡が取れなくなり、会社役員が今年5月に姫路署に相談していた。

 野村の発表によると、中村容疑者は退職後、東京・港区六本木に投資会社を設立、代表取締役になっていた。その後、野村證券船橋支店を舞台にした詐欺容疑が発生。野村の顧客が被害に遭っている。このケースでは船橋支店の営業マンの関与が疑われており、中村容疑者の逮捕を突破口に、大がかりな詐欺事件に発展する可能性が高くなってきた。

BusinessJournal編集部

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