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山本太郎氏・れいわへ政権交代で「消費税廃止」「奨学金返済チャラ」を実現できる

文=林克明/ジャーナリスト
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山本太郎・元参議院議員
山本太郎・元参議院議員

 8月1日に召集された臨時国会で、もっとも注目されているのは、先の参議院選挙で2人の当選者を出して国政政党になった「れいわ新選組」だ。選挙前から“れいわ隠し”を徹底していた記者クラブメディア(特にテレビ)や有識者は、投票締め切りの瞬間から、突然報道し、論評するようなった。

 まるで、第二次世界大戦で日本が敗北した直後のジャーナリズムや識者たちの“変身”を想わせる。

「本当は、俺は戦争に反対だったんだよ」「この戦争が無謀だということは、私もわかっていました」などと戦後、昨日まで「大日本帝国万歳」と言ってきた人が、一夜明けたら民主主義者になったかのように、投票が締め切られてから、れいわに関する大切な情報を流し始めた。しかも好意的に。

 れいわは、山本太郎・前参議院議員が立ち上げて4月1日に政治団体登録し、4月10日に結成記者会見したばかりの新しい政治団体だ。

 投票日までの3カ月余りで4億円以上の個人寄付を集め、比例区で約228万票を獲得して2人が当選した。

 今回の選挙で導入された「特定枠」制度を使い、難病ALS(筋萎縮性側索硬化症)患者の船後靖彦氏と重度身体障がい者の木村英子氏を優先的に当選させ、代表の山本氏は候補者中最高の約99万票を獲得しながらも落選した。

 得票率は4.55%で、「直近の国政選挙で得票率2%」との政党要件を満たし、国政政党として認知された。

 日本各地で行われた街頭演説では多くの群集が集まり、社会現象にもなったれいわは、やじうま根性も必要なジャーナリズムにとって、かっこうの報道対象のはずだった。

 それにもかかわらず、テレビ局は意図的ともいえる“れいわ隠し”を実行してきた。山本氏本人も、皮肉交じりに「放送禁止物体の山本太郎です」などと言っていたくらいだ。

 なぜ、選挙投票が終わるまで大手マスコミは報道しなかったのか。それは、もし報道すれば、れいわという一政治団体に支持が集まり、日本の政治や社会が大変革されてしまうかもしれないと危惧したからだろう。

 そうなれば、現在の支配層にとっては一大事である。経済的、社会的、文化的、学術的、あらゆる分野の支配的な勢力にとって、れいわが主張する理念や政策が多くの人々の意識に入ってしまうと、自らが立つ土台が揺らいでしまう。

 役所の一機関ともいえる記者クラブメディアにとっても、それは同じだ。

市民革命の予兆と150年ぶりの政権交代

 巻き起こる旋風の背景には、何があるのだろうか。

 れいわの選挙キャンペーンはわかりやすかった。マーケティング的に「誰に何を言うか」を、明確にしていたからである。

・誰に訴えたのか?…厚生労働省の生活基本調査で「生活が苦しい」と答える60%弱の人々を対象にしていた。ここにはシングルマザー、派遣労働者をはじめとする非正規労働者、生活困窮者、奨学金返済に苦しむ人々、障がい者、生産性が低いとして一段下に見られがちな人々などが含まれる。

・何を言ったのか?…苦しい生活を改善させるための具体策。消費税廃止、奨学金返済チャラ(政府が肩代わり)、全国一律最低賃金1500円政府補償などだ。

 何よりも、生産性に寄与などしなくても「生きているだけでいいんだよ」「生まれただけで価値があるんだよ」「経済的にも精神的にもつらいのは、あなたのせいじゃなくて政策の間違いだよ」と、なんらかのつらさを感じる人々に訴えたことが重要だ。

 れいわ周辺に集まる市民の話を聞いていると、新しい世界を明確に求めている人々と、真綿で首を絞められるような生きづらさを感じている人々と、おおざっぱに2種類の人々の思いが渦巻いていると実感する。

 その渦巻の中に、日本で一度も実現されていない“市民革命”の予兆と胎動を感じられないこともない。

 歴史を振り返ってみよう。

 1869(明治2)年に戊辰戦争という内戦で勝利した明治新政府によって、大日本帝国という「専制国家」が誕生した。

 明治維新についてはさまざまな評価があるが、江戸時代末期に芽生えた立憲主義構想、議会制民主主義構想を、維新勢力(尊王攘夷派)が武力で潰して権力を握ったのが明治維新だという側面は知られていない。

 明治新政府は、富国強兵策を柱に、経済政策、軍事政策、官僚機構、教育システムを構築していった。同時に宗主国(覇権国)にはぺこぺこし、アジア周辺諸国には強圧的に振る舞うのも、1869年以降の為政者たちの特徴である。もっとも、アジア太平洋戦争第では逆切れしたが。

 敗戦により維新勢力が排除されるかと思えば、東西冷戦が起こったことにより復権し、民主化された2019年の現在も基本的には“1869年体制”が続いている。

 だが、明治維新以来つくりあげてきた基本システムも、さすがに150年たって崩れ始めている。最近注目されている年金問題、介護問題、少子化も、地域社会の崩壊も、そして国会内の既存政党も、すべてこのシステムに組み込まれている。

 現在の安倍政権は、そのような歴史的潮流にさからって、あいかわらず宗主国(現在はアメリカ)への隷属、アジア諸国への敵対行動を基本におき、富国強兵路線を続けている。

 それに真っ向から反対のノロシを揚げたのが、れいわなのだ。そこに集まってきた人々は、明治維新以降構築されてきたシステムから多かれ少なかれズレた人であり、ましてや“永田町の感覚(既成の政治体制と思想)”を持つ人はほとんどいない。

 つまり、これから政権交代が実現すれば、初めての市民政権樹立になり、明治維新以来150年ぶりの政権交代という意味を持つ。

 かつてヨーロッパで起きた市民革命とは、時代も状況も違うものの、今風の市民革命的状況には十分、なり得る。市民革命などと大げさに表現したり、専門家のように分析しなくても、かなり多くの人が、近く大きな変化が起こるかもしれないという予兆を敏感に感じ取っていることだろう。

 そう感じ取った人々が、れいわブームを起こしたのではないだろうか。そうならば、今後のれいわやその周辺の人たちの動向から目が離せない。

単なるポピュリズムなのか

 同党の躍進を評して「左派ポピュリズム」という意見も最近よく見聞きする。ネットや街頭における運動スタイルや、大衆受けする政策に対する評価だが、少し違うのではないか。そう私が思ったのは、ある市民運動家から受け取ったメールを読んでからだ。

 そのメールは「多くの識者が、れいわをポピュリズムと指摘していますが、私は違うと思います。山本太郎さんたちの主張と行動の根底には、人間愛があるのではないでしょうか」という趣旨だった。

 確かに、「生きていていいんだよ、生きてください」と、生きづらさを抱える人々に切々と訴える姿から、人間というものを信じているのだなと感じる。その点を指して、このメール発信者は「人間愛」という表現をしたのだろう。

 人間愛という言葉が大げさなら、「人を大切にする姿勢」と表現してもいい。人間愛というものを真剣に考えれば、実に高度な理想・真理であり、極めて抽象的でもある。

 その崇高な理想と心理を落としこんだのが、「消費税廃止」「全国一律最低賃金1500円」「奨学金返済チャラ」などの、誰にでもわかる、俗っぽくシンプルで具体的な政策ではないのか。

 これらの政策を受けて、「人間愛って、“ばら撒き政策”のことですか?」「社会変革という立派な理念をいうが、結局は下世話なカネなのか?」といった批判をする人も出てくると考えられる。しかし、高度な理想や理念を、生活者の言葉に置き換えて行動に移すときに、爆発的な力が生まれるのだ。

 話は突然変わってしまうが、仏教の祖である釈迦のことを考えていただきたい。悟りを得た釈迦は、すぐには行動しなかった。何年もかかって到達した悟りを、菩提樹の下で7日間、ひとりでじっくりと味わい、ある時、すーっと立ち上がって人々に教えるために行動を始めた。そうして、悟りという抽象的なものを、具体的に、わかりやすく大衆に伝えたはずである。

 また話は変わるが、ドナルド・トランプ米大統領によって建設されたアメリカ・メキシコ国境の壁越しのシーソーにも通じる。

 2つの国に分断される人々が、国境線をテコにシーソーに乗って遊ぶ。平等とか正義、世界平和とか人間愛のようなものを、シーソーという子供の遊び道具で表した。あれを見れば、難しい理念を語らなくても誰もが理解し、そのメッセージは大拡散されるだろう。

 そのわかりやすく落としこむことが、ポピュリズムに見えるのではないだろうか。具体的で生生しく、実務的で目に見える成果を得られる政策こそが、理想や理念を実現するのだ。

消費税廃止と政権交代

 社会変革の今後を占う上で重要なのは、れいわがほかの野党との連携をどうするかだ。既成野党とれいわの違いは、「消費税廃止」である。ほかの野党は、増税反対や凍結は主張しても、廃止までは言っていなかった。

「最低賃金1500円」は共産党や社民党が政策に掲げており、奨学金チャラにかかわる「給付型奨学金の充実」などは立憲民主党なども公約に取り入れている。

 だからこそ「消費税廃止」は際立っている。したがって、この政策でほかの野党に妥協すれば、勢いが失速する可能性は相当高い。

 もうひとつ既成野党と違う点は、山本太郎氏は選挙前から「政権を取りに行く」と繰り返し述べていたことだ。早く権力を握り、緊急政策を全部実現したいと主張していた。

 ほかの野党は、「改憲勢力を3分の2未満に抑える」とか、「できれば与党過半数割れさせる」と言うばかりで、政権交代して独自の政策を実行するという強烈なメッセージを伝えていなかった。

 そうなれば、今後は、れいわが「改革の一丁目一番地」と主張する「消費税廃止」が次期総選挙の最大の争点になる可能性がある。

 明治維新以後のシステムが大きく崩れ始めている現在、日本で初めての市民政権樹立も夢物語ではないのだ。
(文=林克明/ジャーナリスト)

林克明/ジャーナリスト

林克明/ジャーナリスト

1960年長野市生まれ。業界誌記者を経て週刊現代記者。1995年1月からモスクワに移りチェチェン戦争を取材、96年12月帰国。第一作『カフカスの小さな国』で小学館ノンフィクション賞優秀賞受賞。『ジャーナリストの誕生』で週刊金曜日ルポルタージュ大賞受賞。

 最新刊『ロシア・チェチェン戦争の628日~ウクライナ侵攻の原点を探る』(清談社Publico)、『増補版 プーチン政権の闇~チェチェンからウクライナへ』(高文研)
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