我々は多量の電磁波を浴びている
我々は日々、さまざまな電磁波を浴びている。自然由来の電磁波もあれば、人工的な電磁波もある。前者には、太陽光、雷、シューマン共振などがある。我々が可視光線域で認識している太陽光は、地球の外から降り注ぎ、この世界に生命を誕生させる源であり、我々にとって不可欠な電磁波である。雷は、地上における電磁波の源で、雲と雲との間、あるいは雲と地上との間の放電現象によって光と音を発生させる。
また、シューマン共振は、地球の地表と電離層との間で極極超長波 (ELF) が反射を繰り返し、その波長がちょうど地球一周の距離の整数分の一に一致した定在波で、周波数は約7.8Hzである。そのエネルギー源は雷の放電や太陽風による電離層の震動だと考えられている。電気が普及するようになった19世紀後半まで、電磁波の源といえば、これらが主だったものだった。
だが、我々はものの百数十年で地球環境を変化させ、人工的な電磁波を爆発的に増やしてきた。上空だけでもたくさんの人工衛星が地球を周回しており、その約2000機が稼働中といわれ、GPSやテレビ、携帯電話、気象観測、軍事目的等で電磁波(電波)を発生(あるいは反射)させているが、地上では電磁波の発生源は無数にある。テレビ・ラジオの送信所や携帯電話の基地局からの電波や、高圧線が発する電磁波だけでなく、職場や家庭において多くの電化製品がさまざまなレベルで電磁波を発生させている。
高圧線や家庭用コージェネレーションシステムが生み出す低周波の電磁波など、健康への悪影響は数多く報告されているが、個人的に体験しない限り、多くの人は無頓着でいる。電磁波が雲や霧のようなものとして可視化できれば良いのだが、残念ながらそのようにはいかない。わずか百数十年の間に、身の回りに数えきれないほどの電磁波発生源を抱え込むことになった我々は、もはやどの発生源がどの程度自分の健康に悪影響をもたらしているのか、判断することはほぼ不可能になっているといえるだろう。実際のところ、ヒトの健康には、生活環境や食事・睡眠・運動を含めた生活習慣、思考習慣など、さまざまな要素が複雑に関係してくる。
基本、抵抗力の弱い一部の人々だけが、電磁波の影響を敏感に受け、体調不良や病気に至る可能性はあると考えられるが、もともと抵抗力が弱かったのか、不相応な環境や習慣から抵抗力を失ってきたのか、特定の電磁波源から影響を受け続けたから抵抗力を失ってきたのか、そのあたりの判断も難しい。電磁波過敏症の人々がやるせない思いをするのも、そんな事情があるからだと思われる。
通信インフラ5G普及に潜む健康リスク
だが、我々はますます多くの電磁波をどこからともなく浴びる傾向にある。電話やインターネットは、有線から無線へと向かい、家電も連携させるIoT(モノのインターネット)の時代を迎えつつあるのだ。そして、将来的に一部の人々だけでなく、大半の人々が人工的な電磁波の影響で体調不良に至る可能性もゼロとはいいきれない。
例えば、近く携帯電話業界では通信インフラを第五世代移動通信システム、いわゆる5Gに世代交代させる予定になっている。5Gにおいては、通信速度を高速化させるために、これまでより高い周波数帯(6GHz以上)のマイクロ波が利用される。だが、周波数が高くなると、電波を遠くまで伝えることが難しくなり、多数の小型基地局(マイクロセル)をおよそ100メートルごとに設置する必要があるといわれている(支柱にアンテナと電源装置を設置する)。また、物理的な障害物にも影響を受けやすく、これまで以上に出力を上げる必要性もある。
そんなことがあるためか、アメリカでは各地で5G普及に対する反対運動が繰り広げられている。それは議会でも論じられるに至っているが、アメリカに限らず、ヨーロッパやオーストラリアでも似たような状況にある
5G電波による体調不良の原因は明確にされていないが、これまで以上に波長の短い電波が高出力で発せられることで、生物体内への侵襲性が高まるためと思われる。5Gにおいては、これまで使用してきた周波数帯に加えて、24~39GHzもの周波数帯が利用される。39GHzの周波数に対応する波長は約8ミリ、6GHzの場合は5センチ、2GHzの場合は15センチである。波長15センチの電磁波よりも、波長8ミリの電磁波のほうが物体内部への侵襲性が高まる。
例えば、体長2センチの生物に、波長15センチの電磁波を照射すると、外側に影響は与えても、内部にまで影響を与えることは難しい。だが、波長2センチ以下の電磁波を照射すれば、内部にまで伝わる可能性が高くなるのだ。実際にミツバチに対して2GHz、6GHz、24GHzという、まさに携帯電波を照射する比較実験が行われているが、その結果、24GHzの電磁波(波長12.5ミリ)を照射した場合、体内までほぼ完全に伝わることがわかっている。
ミツバチに限らず、12.5ミリよりもサイズの大きな昆虫は数多く存在する。いずれ、5Gネットワークは全世界に張り巡らされる予定であるが、昆虫たちにどのような影響が出るのか、不安を抱く専門家も少なくない。ミツバチはすでにネオニコチノイド系農薬が原因と思われる大量死が問題視されてきたが、さらに5G電波の攻撃に遭えば、花粉媒介者としての役目を果たせなくなるかもしれない。
同様に、他の花粉媒介者たちも影響を受ける可能性があり、農作物の収量低下といったレベルを超えて、生存すら危ぶまれる植物も出てくるやもしれない。これは、生態系を崩し、最終的に人類の未来に影を落としかねない。
ここまでの影響は、過剰な心配と思われるかもしれないが、すでに問題が指摘されてきている以上、まずはその問題と向き合い、ヒトだけでなく、さまざまな生物への影響度を調べていくことが先決である。国(地域)によって使用される周波数帯がいくらか異なるため、日本ではそれほど問題が出ないかもしれない。だが、それにしても、日本ではまったくといっていいほど、5Gへの移行による利点しか話題とされていないことに違和感を覚えるのは筆者だけであろうか。
もともと我々の体は地球とリズムを合わせている。朝明るくなると目を覚まし、夜暗くなると眠る。このリズムを乱すと健康を崩しやすい。また、人間の脳波は奇しくもシューマン共振の周波数とかぶり、リズムを共有している。地上の野生生物が日々同じリズムを維持しているように、我々も自然体でいれば、自ずと地球とリズムを同調させる。かつてはそうだった。
だが、現代人は長時間に及んでイヤホンやヘッドフォンを直接身に着け、直接の振動源である電車や自動車の中で過ごす。そして、パソコンやスマホを至近距離で利用し、人工の照明を浴び、さまざまなノイズを聞く。ますます本来の地球のリズムとは異なるリズムに自らを合わせようとしている。そんな現状を考えれば、現代人が原因不明な病気に陥りがちなのは当たり前のようにも思える。裸足で大地に立つと、身体はアースされ、直接的に地球のリズムが身体に伝わり(取り戻し)、他の人工的な要素による影響を少なくできる。これが一つの健康法になりうるほど、ヒトは自然との同調を失ってきたのだ。5Gへの移行を機に、我々はもっと基本的なことについて考え直すべきなのではなかろうか。
(文=水守啓/サイエンスライター)