東京一極集中、その知られざる理由…人々が東京から出ていかなくなったことで起きる事態
国立社会保障・人口問題研究所(以下、社人研)が2018年に発表した市区町村別の将来人口推計では、2020年の東京23区の人口を949万人、2040年には976万人と予測している(本連載前回記事の図表2参照)。これも前回紹介した通り、筆者推計による2020年の23区人口は974万人。社人研推計とは2020年段階で、すでに約25万人の誤差が生まれている。
この誤差が、主として高齢者の増加によってもたらされたのであれば、将来推計への影響はやがて収束していくだろう。一方、若いファミリー層が中心の場合は、上振れはさらに拡大していくことになる。新たな命が誕生する可能性が高まるし、超長期的に見れば、産まれた子どもが次世代の子どもを産むという拡大再生産が期待できるからだ。
巷間を賑わせている未来論の中に、地方から東京に移住してきた人たちが故郷から年老いた親を呼び寄せ、これが東京の超高齢化に拍車をかけているとの説がある。だとしたら、25万人の誤差は前述した前者の影響が大きいことになる。
2018年の『住民基本台帳人口移動報告』によると、23区の75歳以上の転出入状況は、およそ4500人の転出超過。多摩地域は約1300人の転入超過だが、その数は多摩地域に暮らす75歳以上のお年寄り(約54万人)の0.2%にすぎない。
データ入手の都合上60歳以上の分析となるが、2018年に都内の区市町村に転入した高齢者の前住地は、東京都内間での移動が59%、埼玉・千葉・神奈川の周辺3県からが22%で、地方(1都3県外)からは2割にも満たない。
子どもが老親を呼び寄せることについては、筆者もかねてから警告を発してきた。だが、それは高齢者にとってのハッピーライフという視点に立ったもので、問題意識がまったく異なる。ともあれ、「地方に住む親を東京に呼び寄せている」という説は、少なくとも現時点では事実から遠い。
これに対して、若いファミリー層を中心に誤差が生じているという考えは、かなり現実に近いと思われる。多くの区で出生率が上昇傾向にあること、幼児の数が増えていることなどが、その傍証といえるだろう。
仮に25万人の誤差が将来そのまま上振れ差となっていくとすると、2040年の23区の人口は1000万人に達することになる。だが、筆者の興味は1000万人という区切りの数字より、東京一極集中が一向に収束しない真の理由と、その先にある東京の未来にある。
転入超過数が描く不思議な「波」
図表1は、23区の転入超過数の推移を長期スパンで追ったものだ。23区全体(図表1-1)を見ると、転入超過数が次第に増えていくという大きなトレンドがある。しかし、それは決して直線的ではなく、波を描きながら進んでいる。なぜ、不可思議な波を描くのか。どうやら、ここに問題を解くヒントが潜んでいそうだ。
23区の社会移動は、対首都圏郊外部(埼玉、千葉、神奈川の3県と東京都多摩地域の合計)と、対地方(1都3県以外)という性格が異なる2つの要素によって構成されている。
対首都圏郊外部との関係(図表1-2)は、前世紀においては次第に転出超過数が減っていき、今世紀に入ると転出入が均衡するという状態が続いている。波打っているのは2カ所で、1970年代に入ると転出超過数が大きく減少し始めたことと、80年代末に転出超過数が一時的に増えたことだ。
『なぜか惹かれる足立区~東京23区「最下位」からの下剋上~』 治安が悪い、学力が低い、ヤンキーが多い……など、何かとマイナスイメージを持たれやすい足立区。しかし近年は家賃のお手傾感や物価の安さが注目を浴び、「穴場」としてテレビ番組に取り上げられることが多く、再開発の進む北千住は「住みたい街ランキング」の上位に浮上。一体足立に何が起きているのか? 人々は足立のどこに惹かれているのか? 23区研究のパイオニアで、ベストセラーとなった『23区格差』の著者があらゆるデータを用いて徹底分析してみたら、足立に東京の未来を読み解くヒントが隠されていた!