東京一極集中、その知られざる理由…人々が東京から出ていかなくなったことで起きる事態
東京の「ポンプ機能」が失われていく
さらに検証を進めよう。図表2は、図表1を転入数と転出数にセグメント分割した結果である。対首都圏近郊部(図表2-1)では、転入は大きく変化しておらず、転出が減少していることが明確だ。対地方部(図表2-2)では、近年は転入が増え、転出は横ばいという傾向が見られるものの、より長期的なトレンドとしては、転入の増加傾向以上に転出の減少傾向が大きいことがわかる。
東京一極集中と聞くと、私たちは得てして転入のほうを意識してしまう。地方から若い人たちが東京に集まってくる。都心居住の流れに乗って、郊外部からファミリー層が東京に移住してくる。しかし、実態はそうではなく、東京に集まった人々が東京から出ていかなくなってしまっている。デフレが続き、格差が広がり、人口が減少し、衰退への坂道を転がり落ちようとしている我が国の中で、もはや頼みの綱は東京だけ。東京に集まり続ける人々の心の奥に、そんな思いがあるのだとしたら、「東京ひとり勝ち」は「東京不戦勝」を意味していることになる。
2018年の『住民基本台帳人口移動報告』によると、23区への転入者(区内間の移動を除く、以下同)の49%が20代、22%が30代。転出は、20代が37%、30代が26%。社会移動とは、実は20代・30代のキャッチボールだ。
その中心は、地方から東京に転入してくる20代と、より安くより広い住宅を求めて東京から郊外部に転出する30代。しかし、20代で東京から地方に転出する人も少なくない。彼らは人生でもっとも多感な時期を東京で過ごし、そこで得た知識や経験を携えて故郷にUターン、Jターンすることで、地方に活力を吹き込む牽引役を果たしてきた。故郷に帰らず東京に残った地方出身者たちは、結婚し子どもができると首都圏郊外部に居を構え、郊外部の発展を担ってきた。
東京は、全国に活力を配分するポンプの役割を果たしてきた。しかし、東京に集まった人たちが東京から出ていかなくなると、ポンプの力は弱まり、我が国全体の地盤沈下を早める事態を招いてしまう。そして、その先には少子化が一層促進され、ポンプが空回りに陥る結末が待ち受けている。
表面的な現象論や感情論を超え、改めて東京一極集中、23区一極集中の本質と向き合う必要がある。そうでないと、1000万人都市の出現が最後に咲いた徒花に終わりかねない。
(文=池田利道/東京23区研究所所長)
『なぜか惹かれる足立区~東京23区「最下位」からの下剋上~』 治安が悪い、学力が低い、ヤンキーが多い……など、何かとマイナスイメージを持たれやすい足立区。しかし近年は家賃のお手傾感や物価の安さが注目を浴び、「穴場」としてテレビ番組に取り上げられることが多く、再開発の進む北千住は「住みたい街ランキング」の上位に浮上。一体足立に何が起きているのか? 人々は足立のどこに惹かれているのか? 23区研究のパイオニアで、ベストセラーとなった『23区格差』の著者があらゆるデータを用いて徹底分析してみたら、足立に東京の未来を読み解くヒントが隠されていた!