全国55河川で堤防が決壊し、74人が亡くなった(16日正午現在)台風19号。各地で被害の全容が明らかになる中、東急東横線武蔵小杉駅(川崎市中原区)近くのタワーマンションの惨状が注目を集めている。「サラリーマン憧れのタワーマンションは脆弱なのか」という疑問もインターネット上で指摘され始めた。住みたい街ランキングの上位を占め、都心への交通の便の良さや駅前の買い物環境、周辺の景観などで人気を博してきた街に何があったのか。16日、現地を取材した。
日常の街と非常事態のマンション
今回の台風で甚大な被害を受けたタワーマンションは同地区に11棟あるうちの2棟。最も被害の大きかったのは47階建て、高さ161メートル、計643戸の物件だった。武蔵小杉駅から徒歩2分の好立地に建ち、中原区役所や東急スクエアなども近い。周辺の道路には浸水のなごりか、うっすらとカーキ色の泥の跡が残る。一方で、商店やホテルなどには多くの買い物客が訪れ、いつも通りの日常に戻りつつあった。
そんな街の一角で、泥だらけの作業員らが復旧作業を行っていた。47階建てのタワーマンションは16日午前中も1階から24階部分で停電が続いていた。作業員らが地下駐車場からホースで水をくみ上げる作業を黙々と続ける。午後1時前、大きな機器を積んだトラックが地下駐車場に入った。電気設備か水道ポンプ関連の機器だろうか。
駐車場の入り口は全開で、入れ代わり立ち代わりトラックやライトバンに乗ったさまざまな工事業者が出入りする。そんな作業員に交じって、玄関から大きなトートバックに生活用品や洋服を満杯にして向かいのホテルに向かう住民の姿も多くみられた。
工事関係者によると24階まで停電し、エレベーターも動いていないという。雨水が地下駐車場から地下3階の配電設備に浸水してインフラがダウンした。マンションはオール電化施設だったため、水道ポンプへの配電も途絶し、全戸で断水したという。
大きな荷物をトートバックに詰めて玄関から出てきた住民女性は「ちょうど真ん中より下の階に住んでいるので、避難先の向かいのホテルに洋服を運ぶために階段を何往復もしています。もう疲れました」とくたびれた表情で語った。
同駅周辺では、マンホールや下水溝から下水が逆流し、道路が冠水したという。水は最大時で1.5メートルほどの高さまで水が上がったという。実際に浸水被害があったのはタワーマンション2棟とマンション街区北側にある昔からの住宅街だ。住宅街では床上浸水し、住民らが雨に濡れた家財道具の処分に追われていた。近くに住む男性は「水があがってくるまで10分くらいしかなかった。一瞬だった」と被害当時を振り返った。