日本マイクロソフトが昨年夏に実践した働き方改革「ワークライフチョイス チャレンジ 2019 夏」の成果報告を10月31日に行った。この取り組みでは、8月の毎週金曜日を休業日とする限定的“週休3日制”を1カ月間導入。その結果、2018年8月と比較して印刷枚数を58.7%、電力消費量を23.1%削減し、労働生産性が39.9%向上するという成果を挙げ、社員アンケートでも92.1%の社員が週休3日制を好意的に評価したと発表した。
これまでもファーストリテイリングや佐川急便、ヤフーなどの大手企業が導入していたが、いまだに日本では定着していない週休3日制。はたして今後、日本で浸透していくのだろうか。株式会社クロスリバー代表取締役社長CEOとして働き方改革のコンサルティングを行い、自社でも週休3日制を実践している越川慎司氏に、その普及の可能性について話を聞いた。
売上高ではなく利益率としての生産性維持が重要
越川氏は前職でマイクロソフトに在籍していたが、自身が経営する企業で週休3日制を導入しようと考えたきっかけは、なんだったのだろうか。
「マイクロソフトに在籍していたときから働き方改革に取り組んでいました。そのなかで、労働の価値として労働時間を提供することには限界があり、提供する価値の絶対量に応じて報酬をもらうビジネスのほうが長く働けるのではないかと考え、その実現のために2017年にクロスリバーを立ち上げました。
つまり前提として、起業したときから働き方改革を推進していくことを念頭に置いていたため、クロスリバーでは週休3日・週30時間というワークスタイルを実践しています。メンバーそれぞれの得意分野を組み合わせ、能力をフルに活用するという働き方によって、3年にわたって継続することができています」(越川氏)
では、週休3日制を企業として実践し続けてきたことによるメリットとは?
「労働ではなく価値を提供するという意識を持ち続けることと、少ない時間で多くのことをするために、“やめること”を決められたことですね。お客様からの仕事をお断りした際には、週休3日制についてネガティブなコメントをいただくこともありますが、顧客へ提供する価値の質を落とさないこと、自社のさらなる成長を目指していることをご理解いただき始めていると考えています」(同)
3年間、週休3日制を続け、それによる労働の価値が認められてきたということか。そんな越川氏から見ても、マイクロソフトの働き方改革による成果は、予想よりも高いものであったという。
「マイクロソフトが実施した働き方改革の取り組みに関しては、現在世間で推し進められている働き方改革のように、労働時間の削減を目的とするのではなく、売上を伸ばす仕組みづくりを同時に行うという点が、素晴らしいと感じました。
マイクロソフトが出した労働生産性の数字は、社員1人あたりの売上高を表しているのですが、これが39.9%も上昇するというのは他社に比べて非常に成果があったという印象を受けました。
ただ、私は利益率の低いものをいくら売っても、それは生産性が高いとはいわないと考えていますので、重要なのは売上高ではなく利益率だと思います。グローバル企業の現地法人である日本マイクロソフトは難しいとは思いますが、日本企業には利益率の向上を目指していただきたいです。」(越川氏)
AI技術の発展や高齢社会における介護が普及の後押しに
想定以上の数字を出したというマイクロソフトの試験的な週休3日。この結果を受けて日本でも導入する企業が増えていくのだろうか。
「マイクロソフトの成果をもって採用する会社もあるとは思いますが、たとえ今回のマイクロソフトの事例がなかったとしても、日本で週休3日制を導入する会社は間違いなく増加していくでしょう。
そもそも、現在一般的となっている週休2日制も1965年に松下電器産業(現パナソニック)が最初に導入し、80年代後半から10年ほどかけて完全に浸透していったという歴史的な背景があります。ですから、今後もずっと週休2日制のままという考え方のほうにこそ違和感を抱きますね」(同)
先ほど越川氏が述べていたように、生産性(利益率)を落とさないことが重要となってくるだろうが、週休3日制を歓迎したいというビジネスパーソンも多いはず。その定着は容易ではないようにも感じるが、越川氏いわく「日本で週休3日制が増加していく要因は3つある」とのことだ。
「まず、私たちが考えるように労働時間を提供するのではなく、労働によって提供する価値の絶対量によって利益を得るというビジネスモデルが、ほかの企業にも適用されていくのではないかと考えられます。働いた時間に対して報酬を払う仕組みは限界が来ます。
次に、AI(人工知能)などのテクノロジーの進展による労働時間削減の可能性ですね。WordやExcelに一日中触るような作業は、これからAIに置き換わっていくと考えられるので、人間が介在する必要のない仕事が増えていくでしょう。
最後は、介護問題に対応するための働き方のひとつとして、普及するのではないかということです。これから日本では親や親族の介護をしなければならない人がますます増えていきますので、現在の週休2日制では対応しきれないという事態が発生するはず。そのために介護離職者が増加してしまうと、日本は立ち行かなくなってしまうので、家族対応の時間を確保しつつ働き続けてもらうために週休3日制という働き方が拡大していくのではないでしょうか」(越川氏)
時間ではなく価値での利益追求、AI技術の発展、超高齢社会での介護問題の対応と、さまざまなベクトルから日本での普及が見込まれている週休3日制。だが当然、浸透していくためには障害もあるという。
「働く時間が増えれば売上が上がるというビジネスモデルの企業ですと、売上を上げながら労働時間を減らすモデルに転換しないといけないので、そういった会社ではすぐに週休3日制を導入するのは難しいでしょう。
また、前例がないと動かない経営者や管理職の存在も問題であるように感じます。ただ、前例があれば成功するというモデルはもう崩れていますので、自らが行動を変えて、利益の生み出し方を含めた成功パターンを自分たちで見つけ出すというのが、働き方改革の本質だと私は考えています。それこそかつての松下電器産業のように、自ら動いて変化に対応するという考え方を持ち、実際に動くことができる経営者や管理職の存在が重要になるでしょう。
先のことは誰にもわかりませんが、私の会社では10年後に週休3日制を当たり前にするというビジョンでビジネスをしていますので、10年後には上場企業でも採用されるようにしていきたいと考えています」(越川氏)
夢物語のように思えた週休3日制は、差し迫った社会問題への対応策として、そして企業がより効率的に利益を生み出す方法として、その実現性が高まってきているのではないだろうか。日本でそれが当たり前になる日は、想像するよりも近いかもしれない。
(文=佐久間翔大/A4studio)