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藤和彦「日本と世界の先を読む」

新型コロナウイルス、世界の3分の2が感染する可能性…感染症への対応に世界が注目

文=藤和彦/経済産業研究所上席研究員
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新型ウイルス肺炎が世界に拡大 武漢市の病院(写真:AP/アフロ)

 政府は2月16日、有識者を集めた「新型コロナウイルス感染症対策専門家会議」の初会合を開催した。新型コロナウイルスの感染が広がっている中国との接点が見えない感染者の発生が国内で相次いでいることが、その背景にある。

 専門家会議が現状を「国内発生の早期にある」との認識を示したことを踏まえ、政府は対策の重点を水際での封じ込めから医療体制の整備に移すことを決定した。具体的には、感染の疑いのある人を診察する専門外来を、2009年の新型インフルエンザ流行時並みの800カ所に拡充するとともに、重症者向けの病床の確保を図るなどの方針である。

 専門家会議は患者が急速に増加する「国内感染期」との判断を示さなかったが、世界全体の新型コロナウイルスの感染者数は7万人を超え、終息の兆しはまったく見えていない。

 世界保健機関(WHO)の非常勤顧問を務める感染症の権威であるアイラ・ロンジーニ氏は、「新型コロナウイルスの最終的な感染者数は数十億人に達する可能性がある」という驚くべき試算を明らかにした(2月13日付ZeroHedge)。現在米フロリダ大学で感染症を統計的手法に基づき定量的に分析する研究所の共同所長を務めるロンジーニ氏は、「中国の大規模な隔離措置が世界での感染拡大を半分に抑えたとしても、世界の約3分の1が感染することになる」と警告を発している。

 爆発的な流行の可能性を警告するのは、ロンジーニ氏だけではない。香港大学のガブリエル・レオン教授(公衆衛生学が専門)も「このまま放置すれば世界の3分の2近くが新型コロナウイルスに感染する恐れがある」との見解を示している(2月14日付ブルームバーグ)。

100年ぶりの世界的なパンデミックか

 筆者は1月27日付の本連載で「100年ぶりの世界的なパンデミック(病気の世界的な流行)が起きるのではないか」と指摘したが、残念ながらその懸念が世界の専門家の間で共有されつつある。100年前のパンデミックとはスペイン風邪のことである。スペイン風邪とは、1918年から19年にかけて世界的に流行したH1N1型のインフルエンザである。当時の世界人口は20億人弱だったが、その大半が感染し、短期間に2000万人以上が死亡したとされている。

 スペイン風邪は18年に米国カンザス州の米軍基地で発生したが、その後、第1次世界大戦に従軍したドイツ軍兵士の間で大流行し、このことが大戦終結の要因ともなったといわれている(スペイン風邪の死者数は第1次世界大戦の戦死者数の2倍以上だった)。スペイン風邪と呼ばれるようになったのは、当時中立国だったスペインが流行の状況を隠さなかったために広く世界に報道されてしまったからである。

 日本でもウイルスが上陸後、約3週間で感染が全国に広がり、2400万人の患者と39万人の死者が出たとされている。当時の日本の人口は5600万人超だったことから、日本人の4割近くが感染したことになる。スペイン風邪の世界全体の致死率は2%程度だったが、豊かな国での致死率は低かった。米国ウィスコンシン州の致死率は0.25%であるのに対し、インドのある地域では7.8%と31倍の開きがあった。日本の致死率は1.6%だったとされている。

日本の対応に世界が注目

 現代でもその傾向は変わらない。「新型コロナウイルスはSARSよりも感染が広がりやすいため、2009年に流行した新型インフルエンザに近い」との見解が専門家の間で広まっている(2月15日付ブルームバーグ)。09年にメキシコで発生した新型インフルエンザウイルスは根絶されることなく、12年以降、季節性インフルエンザの一つとして定着している。現在米国でインフルエンザが大流行している(死者数は1.2万人を突破)が、新型インフルエンザが中心的な役割を演じている。日本でも新型インフルエンザの感染者数の累計は約2000万人に達している(2月17日付日本経済新聞)。

 09年当時の日本では、初期段階に健康監視の対象が約13万人に膨れあがり、全国各地の保健所がパンクする騒ぎとなったが、死者数は200人にとどまり、致死率は0.16%と世界最低であった(妊婦の重症化率も世界最低だった)。米国の死者数が1.2万人、致死率が3.96%であり、公衆衛生の水準が高いとされるドイツの死者数が250人強、致死率が0.31%であったことを比べると、日本の医療システムがいかに優秀であったかがよくわかる。(1)日本人一人ひとりの公衆衛生に関する意識が高かったこと、(2)医療費が安く医療機関への受診が容易だったことなどがその要因として挙げられるが、その分医療機関の現場は大変だっただろう。

 米国疾病予防管理センター(CDC)のロバート・レッドフィールド所長は14日、「新型コロナウイルスの感染拡大は今年中に終わらず、来年まで続くかもしれない」と述べたように、新型コロナウイルスとの戦いは、新型インフルエンザと同様、短期戦ではなく長期戦になる可能性が高まっている。  

 新型インフルエンザで最も優れた能力を発揮した日本に注目が集まっているのである。WHOの進藤奈邦子シニアアドバイザーは14日、「日本はここでがんばって感染の拡大を食い止めてほしい。良いデータを出して世界に提供してほしい」と訴えたが、日本は新型インフルエンザの教訓を踏まえ、新型コロナウイルスの感染拡大の被害を食い止める具体策を中国に代わって世界に示す義務があるのではないだろうか。

(文=藤和彦/経済産業研究所上席研究員)

藤和彦/経済産業研究所コンサルティングフェロー

藤和彦/経済産業研究所コンサルティングフェロー

1984年 通商産業省入省
1991年 ドイツ留学(JETRO研修生)
1996年 警察庁へ出向(岩手県警警務部長)
1998年 石油公団へ出向(備蓄計画課長、総務課長)
2003年 内閣官房へ出向(内閣情報調査室内閣参事官、内閣情報分析官)
2011年 公益財団法人世界平和研究所へ出向(主任研究員)
2016年 経済産業研究所上席研究員
2021年 現職
独立行政法人 経済産業研究所

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