NTTドコモのコールセンターで新型コロナウイルスに8人が感染しました。集団感染の可能性があります。ここで働いていたスタッフにインタビューしたところ、以前に「担当者から『風邪でも出勤できるようなら来てください』と言われていた」との証言が出ています。
ドコモコールセンターで8人が新型コロナに集団感染の可能性
NTTドコモは3月12日に、都内のコールセンターで8人が新型コロナウイルスに感染したことを明らかにしました。
・(お知らせ)当社コールセンターにおける新型コロナウイルス感染者の発生について<3月15日追記>
それによると、3月11日に協力会社の社員1人が感染したことを確認したため、12日から運営を停止。その後15日午後9時までに同じコールセンターで働く5人の感染が確認され、その後も2人の感染が確認され合計で8人が新型コロナウイルスに感染しています。
このコールセンターに勤務するスタッフA氏に話を聞きました。A氏が働いていたのは東京都内にあるセンターで、ベルシステム24という企業が委託を受けて運営しています。ベルシステム24はNTTドコモと同じく8人の感染があったことをリリースで発表しています。
・ベルシステム24:当社拠点における新型コロナウイルス感染者の発生について
A氏は別の会社に勤めており、ベルシステム24に派遣され、NTTドコモのコールセンターで勤務しています。
「風邪気味でも出勤できるなら来てください」と研修で言われる
A氏が働いていたコールセンターは、3月12日木曜日の業務途中でスタッフに帰宅命令が出て、13日から業務停止・自宅待機となっています。A氏に電話で話を聞きました。
A氏「研修の時に『風邪気味であっても出勤して一本でも電話を取っていただけたらありがたいです』『あまり体調不良などが続くと自己都合で辞めていただくこともあります』と口頭で言われていました。休めない雰囲気があったのです。また、派遣会社からも『2日以上の体調不良での休みは絶対やめてください』と念押しされていました」
ただし、これを言われたのは新型コロナウイルスが社会的問題になる前でした。
A氏「新型コロナウイルスが問題になっても『なるべく出勤するように』という方針は変わりませんでした。そのため体調不良での休みを取りにくい状況でした」
会社側がスタッフにプレッシャーをかけるような状態だったのことです。新型コロナウイルスが社会的問題になってからも、以下のようなことがあったそうです。
A氏「あるスタッフが体調不良で早退申請をしました。しかし、その人は私に『最低でも一本電話を取らないと帰れないシステムなのでがんばってくる』と言っていたんです」
休めない・早退しにくい雰囲気があったことになります。
なぜベルシステム24はスタッフに対して、「多少の熱があっても出勤できるのなら来てください」と言ったのでしょうか。A氏は推測だと断った上で、こう話します。
A氏「このセンターではスタッフの顧客対応で問題を起こしたことがあり、責任者がスタッフに向かって『このセンターはクレームが来て廃止の危機にある』と言っていました。コールセンターの評価基準として『出社率』があるようで、これを高めるためにスタッフに出社を強く言っていた可能性があります」
なお、発表から2日たった3月17日時点でも、契約社員への説明は不十分のようです。別のスタッフの証言によると、
「新型コロナウイルス感染者1名が出たという情報だけ与えられて自宅待機となっており、それ以外の情報は伝えられていません」
とのことです。
コールセンターでの感染対策は十分だったか?
職場の状況はどうだったのでしょうか。A氏によるとセンターでは200人前後が勤務しており、約600人が在籍していたとのことです。
A氏「入口にスタッフ用のマスクが用意されていましたが、人数が多いこともあって足りないこともありました。そのため、マスクをせず電話に出ている人も多くいました。私の体感では、マスクをしていたのは半数程度でした」
A氏「職場には加湿器やアルコール消毒液は用意されていました。休憩室には加湿器はありませんでしたが置き薬はありました。会社としてはこれで対策は十分と考えていたのかもしれません」
マスクについては、WHO(世界保健機関)が以下のような発表を行っています。
・3月1日付共同通信配信記事『感染予防にマスク着用不要 過度の使用控えてとWHO』
感染予防にはマスクは必須ではないとされています。そのためコールセンターでもマスクを必須にしなかったのかもしれません。電話業務であるがゆえに、マスクをしにくいという事情もあったでしょう。
しかしながらコールセンターでは、韓国・ソウル市内でも従業員と家族など100人以上の集団感染が起きています。今後はコールセンター業務での感染対策が不可欠と言えそうです。
NTTドコモは「体調不良で業務を続けるようにお願いすることはない」と否定
これについてNTTドコモに「風邪気味であっても、なるべくならば出社してください。一本でも電話を取っていただけたらありがたいです」との口頭指示があったかを聞いたところ、以下のように回答がありました。
NTTドコモ広報部「時期や発言者の詳細がわかなない為、発言内容が事実かどうかはわかりかねますが、当社としては、研修内でシフト順守、勤怠の重要性についてはお話しているものの、センター内での蔓延リスクを考慮して、体調不良の場合でも業務を続けるようお願いすることはございません。」
体調不良で業務を続けるようにお願いすることはないと回答しています。また、このコールセンターでの感染対策については以下のような回答がありました。
同「当該コールセンター内においては、コールセンター業務の特性上、マスクを着用しない場合や、従業員向けマスクの提供が充分にできないケースもあったと考えます。マスク着用に加えて基本的な感染対策(手洗い、咳エチケット、対人距離の保持等)及びウイルスレスウオーター、クレベリン等も配備をしており、対策徹底について1月31日以降、重ねて注意喚起を行っております」
また、コールセンターでの今後の対策について、NTTドコモは以下のように回答しています。
同「コールセンターでは基本的な感染症対策の励行(手洗い・咳エチケット)、検温の実施、コールセンター内での座席間隔の拡大、換気や共通部・共用機器の除菌などを、保健所と相談しながら実施しております。また、バックヤード等は可能な限りの時差出勤・テレワークの推奨とし、従業員および同居家族等が感染した場合の報告指示など感染拡大防止を行うと共に、全国のコールセンターでお客様コールを分散し受電することで、コールセンター業務を継続しています」
上記のように対策を実行しているとの回答がありました。
しかしながら、現実として8人の感染者が出ていることは事実であり、証言が正しいとすれば体調不良でも出社を強いる雰囲気があった可能性があります。コールセンター業務でのこれ以上の感染拡大を防ぐために、勤務体制を含めた抜本的な対策をしてほしいものです。
(文=三上洋/ITジャーナリスト)