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トヨタを見習え!コロナ禍下でも積極的かつ果敢な動き、中国でEV工場建設を計画

文=真壁昭夫/法政大学大学院教授
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トヨタ・豊田章男社長(写真:つのだよしお/アフロ)

 新型コロナウイルスによる肺炎の感染拡大による生産活動の低迷によって、トヨタ自動車の業績先行きを警戒する市場参加者が増えている。そうした逆風のなか、同社は中国でEV(電気自動車)生産などに向けた投資を検討していると報じられた。

 これまで、トヨタはモノづくりの力を磨き業績拡大を実現してきた。2019年4~12月期、同社の純利益は前年同期に比べ41%増の2兆130億円に達した。特に、新車販売台数が減少している中国市場において、トヨタがレクサスブランドを中心に売り上げを伸ばしたことは同社の強さを世界に示したといえる。

 ところが新型肺炎の感染拡大で、年明け以降、世界経済の先行きは一段と見通しづらくなっている。新型肺炎は、中国の自動車部品などの生産を混乱させている。中国の個人消費が一段と落ち込む可能性もある。先行き懸念の高まりから、新たな投資に慎重になる企業経営者や市場参加者は増えつつある。

 そのなかで、トヨタが中国でのEV生産などの強化に向けた投資を検討しているとみられることは興味深い。その背景には、企業の成長を左右する重要な発想があるように思う。トヨタが新型肺炎などのリスクに対応しつつ、どのようにさらなる成長を実現するかに注目したい。

磨きがかかるトヨタの競争力

 世界の自動車市場におけるトヨタ自動車の競争力は着実に高まってきたといえる。そう考える理由の一つとして、事業環境の不安定感が高まっているにもかかわらず、トヨタが業績の拡大を実現したことは大きい。

 近年、世界の自動車業界の収益環境は、時間の経過とともに大きく、かつ急速に変化している。その背景にはいくつかの要因がある。その一つとして、ネットワークテクノロジーの高度化と、その実用化の影響は大きい。デジタル化の進行とともに、社会における自動車の役割などは劇的に変化し始めている。自動車は多くのセンサーを搭載し、IT空間と自律的につながることでさまざまな情報を収集・発信する動くデバイスとしての役割を発揮しつつある。

 また、世界最大の自動車市場である中国では、新車の販売台数が減少している。それには、同国の経済が成長の限界を迎えたことが大きく影響している。2019年の新車販売台数は、前年から8.2%減少した。同時に、中国政府は大気汚染対策などを目指して新エネルギー車(PHVやEV)の普及を重視している。市場が縮小しているとはいえ、中国の新車販売台数は年2570万台を超えており、米国の年間販売台数(約1700万台)を上回っている。そのため、需要の取り込みを目指して世界各国の自動車大手がEVなどの開発に注力している。コネクテッドカーやAI(人工知能)を用いた自動運転技術の開発にIT大手企業も参入し、世界の自動車業界の競争は熾烈化している。

 そうしたなかで、トヨタが中国での販売台数を伸ばしたことは、同社の経営トップがテクノロジーの変化に合わせて世界で評価される自動車の生産に取り組んだことの成果であることは間違いない。日本にとって、自動車業界のすそ野は広い。雇用の約8%が自動車関連であり、輸出に占める自動車の割合は20%程度に達する。トヨタの強さは、日本のモノづくりの力を示しているといってよいだろう。

新型肺炎という強烈な逆風

 しかし、2020年に入り、トヨタはかなり強い逆風に直面しはじめている。その一つとして、中国を中心に、世界各国で新型コロナウイルスによる肺炎の感染が広がったことは軽視できない。新型肺炎の影響から中国の個人消費が大きく落ち込む可能性は高い。さらに、新型肺炎の感染は、日本やアジア各国、欧米にまで広がっている。中国だけでなく、近年の世界経済の安定を支えてきた米国の個人消費をはじめ、各国の景気には下押し圧力がかかりやすい。新型肺炎はトヨタの収益に無視できない影響を与える要因の一つと考える必要がある。

 また、トヨタの生産活動に影響が及ぶ展開も否定はできないだろう。新型肺炎の感染拡大を受けて、世界の工場としての存在感を発揮してきた中国では、ITや自動車産業にとって戦略拠点の一つである武漢を中心に企業の操業水準が低下している。

 国内の自動車大手のなかには新型肺炎によって国内外での生産を一時停止せざるを得ないケースが出ている。日産自動車は福岡県の工場に続き、栃木県の工場の操業を一時停止した。ホンダは3月11日以降に武漢工場の稼働を再開する予定だ。これは、3月10日まで湖北省での企業活動が休業に追い込まれたためである。

 一方、2月下旬、トヨタはフル稼働には遠いものの中国にある全工場の稼働を再開した。また、2月末の時点で同社の国内生産には大きな支障は出ていないようだ。その背景には、国内での部品調達を重視してきたことなどがあるのだろう。

 ただ、中国ではヒトやモノの移動制限が長期化する可能性は排除しきれない。今回の新型コロナウイルスに関して、感染源は特定されておらず、治療法も確立されていない。当面、中国政府は防疫のために人やモノの移動を制限せざるを得ないだろう。日本での感染者増加も懸念される。状況によっては、新型肺炎に伴う世界的なサプライチェーンの混乱のなどの影響から、トヨタの生産が想定外に混乱するリスクは排除しきれないと警戒する市場参加者は少なくないようだ。

さらなる成長へのコミットメント

 新型肺炎という世界経済全体の下方リスクを高める要因が浮上し、世界の金融市場で市場参加者はリスク削減を重視している。一方、トヨタはさらなる成長へのコミットメントを強めていると考えられる。それが非常に興味深い。

 報道によれば、中国の天津市において、トヨタはEVなどの工場を建設しようとしているようだ。新型肺炎によって中国だけでなく世界経済の不安定感が高まりやすいなか、多くの企業は投資を控え、守りを固めようとしている。それはトヨタも同じだろう。同時に、トヨタは他社に先駆けて成長分野に経営資源を再配分し、さらなる競争力向上につなげようとしている。

 この姿勢には、企業の成長に欠かせない重要な発想が込められているといえる。世界的に景気が良い場合、多くの企業が業績を拡大させることはできるだろう。差が鮮明になるのは、経済環境が大きく変化したときだ。その際に守り一辺倒にならざるをえないか、守りと成長への取り組みを同時に進められるかが、中長期的な業績、競争力などに無視できない影響を与える可能性がある。言い換えれば、常時、リスクに対応する力を高め、周囲がリスク回避に動いた際に余力を確保しつつ成長期待の高い分野での投資などを実行する体制を整えられるか否かが問われる。

 トヨタはひたむきに技術の向上に取り組み、新しいライススタイルやこれまでにはなかった満足感の創出につなげた。そこから得られた経営資源を、同社は財務の安定性の向上とさらなる成長への取り組みに再配分する体制を整備してきた。

 それがあったからこそ、新型肺炎への懸念が高まる状況にあっても、トヨタは新しい自動車を生み出すための投資を目指すことができるのだろう。このように考えると、トヨタのようにリスクへの対応を強化しつつ、成長への取り組みを進められる企業が増えることが、日本経済の実力に大きく影響する。逆風強まる環境下、トヨタがさらにリスクへの対応力と成長への取り組みを強化することを期待したい。

(文=真壁昭夫/法政大学大学院教授)

真壁昭夫/多摩大学特別招聘教授

真壁昭夫/多摩大学特別招聘教授

一橋大学商学部卒業、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学大学院(修士)。ロンドン証券現地法人勤務、市場営業部、みずほ総合研究所等を経て、信州大学経法学部を歴任、現職に至る。商工会議所政策委員会学識委員、FP協会評議員。
著書・論文
仮想通貨で銀行が消える日』(祥伝社、2017年4月)
逆オイルショック』(祥伝社、2016年4月)
VW不正と中国・ドイツ 経済同盟』、『金融マーケットの法則』(朝日新書、2015年8月)
AIIBの正体』(祥伝社、2015年7月)
行動経済学入門』(ダイヤモンド社、2010年4月)他。
多摩大学大学院

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