“美容サロンと歯医者はコンビニより多い”と言われている日本だが、古き良き“町の理髪店”は姿を消しつつある。厚生労働省発表の「令和4年度衛生行政報告例」によれば、美容室は増加傾向で過去最高を更新した反面、理髪店はじわじわと減っている(前年度比0.9%減)。
1000円チェーンが増加したとか、男性も理髪店よりも美容室に通うようになりお客さんが減ったとか、減少の理由はさまざまあるが結局、“店を継ぐ人”がいなくなってしまっている。理髪店経営者の高齢化が進むなか、「後継者不在」店の事業承継が美容業界でも盛んに行われているのだ。
淘汰の足音が少しずつ聞こえてきているような理髪店。だが、世田谷区の美容サロンに15年勤めてきた、スタイリストの福嶋友美さんは、東京・世田谷駅で約60年続く老舗理髪店の3代目をいずれ引き継ぐために、今年10月に長年勤めてきた美容室を退社した。
現在、お客さんもたくさんついている美容室のスタイリストがなぜ、みんながやめたがっている理容室を継ぐ気になったのだろうか?
「最初は理容学校に行ったんですが、そのころは若かったので、別に理髪店で働きたいと思ってなかったし、実家を継ぐなんてことも全く考えてなくって、卒業して美容学校にも行きました。両方の国家試験も受けてみたわかったんですが結局、座学も一緒だし使う道具とかも一緒で、違うのはシェービングとかちょっとしたことだったんですよね。
美容室で長年働いてみて実家を手伝ったりもしてみて、お客さんと話すのは楽しいし、どこのお客さんでもそれは一緒です。だったら、サロン的なカットやカラーもできるし、シェービングもできる私が、ここでいろんなお客さんと関われたらいいかなって思って」
人と関わり続け、武器も持つ福嶋さん。だが増加している美容業界は、自己PR合戦の真っ只中。
「今、美容業界は人気がある中で個性をだしていかないといけないんです。SNSを駆使して、ネイルとかマッサージとかいろんな付加価値をつけて、差別化を図っているお店やスタイリストが人気です。同じボブヘアでもカットに必殺技みたいな名前をつけて、ハッシュタグをつけたり。カラーも、同じピンクベージュでも、ストロベリーミルクラメカラーとかって、スタバのフラペチーノみたいな名前つけたりして……ちょっとやりすぎかなって思うのもあるけど(笑)。
でも私も、美容室でも理容室でも働いていてみたら結局、お客さんは人につくことがわかりました。今はまだ両親が健在なので、“必殺技”はまだないですけどまずは、アーティストとして独り立ちをして自分なりの個性をつくっていきたいと思っています」
そうするのには理由がある。世田谷ボロ市などで注目を集めるこの町そのものも、創業して60年来、さまざまな変化をしてきた。世田谷区という日本屈指の人気住宅街の中で、店とともに、町を盛り上げていきたいという思いがある。
「祖父母や母から聞いてもそうだし、私が生まれてからでもどんどん町は変化しています。以前は肉屋さんや魚屋さん、薬屋産などがある完全な商店街でした。それがまさに立替などでビルになっていきました。近くの松陰神社などは世田谷でも人気のスポットに変わっていきましたが、このあたりはだいぶ静かになっちゃてて。 でも最近、新しいごはん屋さんとかコーヒー屋さんとか古着屋さんとかができてきたので、私もいっしょに、なにかできたらなって。お店を継いだら、まず外観とか内装はきれいにしたかな(笑)」
最近は、ヒゲ剃りに特化した理容室が人気を集めて海外進出したりするなど、“町の理髪店”もより個性化の時代になっていきそう。両刀使いの福島さんが淘汰の歯止めとなるスタイルの先駆者になるかもしれない。
(文=大沢野八千代/写真=田中成美)
■福嶋友美(ふくしま・ともみ)
中央理容専門学校卒業及び、日本美容専門学校卒。美容師と理容師、2つの資格を持つ。都内サロン2店舗で約15年間勤務。aujuaソムリエ。得意技はパーマ、縮毛矯正。モットーは技術と居心地がちょうど良い理美容師。
インスタグラム:toco_fukushima
■「Hair Studio F&F」
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