アメリカ、10月にイランへ軍事攻撃の計画か…トランプ氏、大統領選対策で非常時演出
歴史の必然であろうか、超大国アメリカの屋台骨が崩れ始めている。その引き金を引いたのは新型コロナウィルス(COVID-19)だ。何しろ、感染者数でも死亡者数でも世界最悪の記録を更新中である。追い打ちをかけるように、アメリカ各地では人種差別に反対するデモや破壊行為が過激化する一方になってきた。8月6日に発表された統計によれば、第2四半期のGDPは通年ベースで32.9%の減少となり、これはアメリカ史上最悪の数字にほかならない。
コロナ禍の影響は甚大で、日本もそうだが、アメリカでも観光業や飲食業の落ち込みは半端ない。全米レストラン協会によれば、少なくとも15%のレストランは廃業に追い込まれてしまった。州別で見れば、観光客依存度の高いハワイ、ネバダ、ニューヨーク各州の状況は特にひどい。航空会社や鉄道会社も大幅な人員削減に追い込まれている。
また、ライフスタイルの変化もあり、新車販売の低迷から自動車産業の中心地ミシガン州はかつてない景気後退の嵐に見舞われている。各州の知事が発令した都市封鎖(ロックダウン)の影響もあり、在宅勤務や外出制限が広がり、企業の業績も悪化の歯止めがかからない。
結果的に、全米の失業者数はうなぎ上りである。なんと失業保険を申請する人の数は20週連続で毎週100万人を超えている。過去6カ月で6000万人が新規に失業給付金を申請したことになる。全米の勤労者数は1億5200万人であり、3人に1人は失業者ということになる。
GAFAに代表されるようなIT関連企業やテレワークで大躍進のズームなどは絶好調で「わが世の春」を謳歌しているようであるが、大半のビジネスは活気を失ってしまった。いわば、一握りの超儲かり企業と、その他のほとんど全部は破綻寸前という極端な格差社会になったわけだ。少し前までは「1%の富裕層と99%の貧困層」といわれていたアメリカが、今では「0.1%の超リッチと99.9%のプアに分断されてしまった」といわれるゆえんであろう。ブルームバーグが報道した全米統計局の調査によれば、7月半ばの時点で「3000万人のアメリカ人が日々の食事に窮している」とのこと。
さらに深刻な問題は、白人警察官が黒人容疑者の首を絞めて殺害した事件がきっかけとなり、全米に広がった人種差別反対のデモや破壊行為である。BLM(黒人の命は大切だ)運動は過激化するばかりで、各地の警察署が放火されたり、白人の女性や子供までもが殺されたりする事態に陥っている。こうした危機的状況に対して、効果的な歯止めをかけられない政府への不満や不信は高まるばかりだ。
トランプ政権が実行している対策といえば、ドル紙幣の増刷一本やり。未曾有の感染症対策と称して、アメリカ政府がこの6月ひと月間に発行したドル紙幣の総額は8640億ドルだった。この金額はアメリカ建国以来200年間に発行された、すべての金額を上回るもの。まさに国家破綻を招く以外の何物でもない無責任な増刷ぶりである。世界に例を見ない超インフレばらまき政策といえるだろう。もはやドル紙幣の価値は額面の1%といわれる有様だ。金(ゴールド)に投資マネーが流れるのも当然だといえる。
残念ながら、誰もが期待するような「普通の日常生活」はもはや望めそうにない。自然災害も深刻さを増す一方である。日本でも九州や東北地方などの大雨による河川の氾濫が後を絶たないが、アメリカではハリケーンや地震の猛威が例年以上に被害をもたらしている。「踏んだり蹴ったり」というべきかもしれないが、そうした厳しい現実にアメリカは直面しているのである。
史上最悪の大統領選
そんな危機的状況下で行われるのが11月のアメリカ大統領選挙である。コロナ騒動が沸き上がる以前は、「トランプ大統領の再選で決まり」という雰囲気であった。ところが、コロナ旋風によって潮目が激変することに。各種世論調査によると、ホワイトハウスの奪還を狙う民主党のバイデン前副大統領の人気が現職のトランプ大統領を上回っている。もちろん、世論調査通りの結果に終わるとは限らない。前回2016年の場合も、事前の調査ではヒラリー・クリントンが圧倒的な強みを誇っていたが、トランプの勝利で終わったものだ。
とはいえ、このまま行けば今年78歳のバイデン氏が当選して最高齢大統領の誕生ということもあり得る。というのも、国民の間に反トランプというムードが広がっていることは間違いないからだ。精神科医の姪からも「史上最悪の自己中で、うそつきの大統領」とこき下ろされ、その後、元連邦検事の姉からも「危険で残酷な弟。絶対に再選させてはならない」とまで批判されているトランプである。
とはいえ、何を言われようと馬耳東風を決め込んでいるのがトランプ大統領だ。新聞、テレビ、ネットでどんなに非難されようが、「フェイクニュースだ」と無視。確かに、不動産王として成功し、テレビの人気番組を長年仕切ってきた経験もあり、大統領選には欠かせない候補者同士の討論では決して負けないとの自信があるようだ。
トランプ大統領の期待に反して、このテレビ討論にもコロナの影響で変化が起きそうな雲行きである。何かといえば、挑戦する側のバイデン候補は「コロナの影響を避けるため」との理由で、8月半ばにミルウォーキーで開催された大統領候補を指名する全国大会への出席を見合わせ、デラウェアの自宅から受諾演説を行ったからだ。同じ理由で、トランプ大統領とのテレビ討論も3回行われるのが通例であるが、今回は行われない可能性もある。
一方、現職のトランプ大統領を擁立する共和党も状況は似たようなもの。当初、8月24日の週にフロリダ州のジャクソンビルで開催する予定であった全国大会だが、トランプ大統領自らが「フロリダには行かない。受諾演説はホワイトハウスで行えばいい」と方針転換。
トランプ大統領曰く「安全確保の観点から、それが一番だ。自分が移動すれば大勢のセキュリティスタッフも動くことになる。シークレットサービスの経費を減らせるメリットもある」。実際のところ、アメリカでは慣例上、ホワイトハウスでの選挙活動を禁止しているのだが、それを無視して、ホワイトハウスのローズガーデンを共和党の大統領候補指名受諾演説の会場に選んだのがトランプ陣営であった。
いずれにせよ、トランプ対バイデンの演説合戦はあまりにも内容がお粗末としかいいようがない。とても超大国アメリカの最高指導者を目指す候補者のやり取りとは思えない。
例えば、トランプ大統領曰く「先の民主党全国大会でバイデンが行った演説はいつもの認知症らしさがなかった。きっと何か薬を使っていたに違いない。来るべき候補者同士の討論会の開始前には薬物検査を要求したい。自分は薬などの力を借りなくても大丈夫だ」。
対するバイデン候補曰く「自分は子供の頃からどもりだった。そのためクラスメイトや先生からも“どもりのジョー”といじめられた。そのため、どもり矯正プログラムを根気よく続けたおかげで今では大分改善した。でも、まだ時々どもってしまう」。
トランプもトランプなら、バイデンもバイデンで、アメリカや世界の直面する課題への解決策や未来へのビジョンなどまるで関心がないようだ。コロナ対策に関しても、バイデンは「全国民にマスク着用を義務付ける」と主張。すると、トランプは当初「そのうち自然に消滅する。マスクなどは弱虫の着けるもの。自分には必要ない」といった強気な発言に終始。しかし、自分だけはNASAが開発したスティック状のウィルス予防噴霧器を胸ポケットに隠していたというから、開いた口が塞がらない。
ロシアの介入
そんな折、上院の諜報委員会が3年半を費やして調査した報告書が公表された。題して、「2016年大統領選挙におけるロシアの介入」。940ページに及ぶ報告書の結論は「プーチン大統領の指示で、ロシアの諜報機関がトランプ陣営の選対本部長のミューラー氏らと共謀し、民主党のヒラリー・クリントン陣営にハッカー攻撃を仕掛け、激戦区での選挙人争奪戦でトランプ候補が有利になるように工作を行った」というもの。
注目すべきは、この委員会の構成メンバーは共和党が過半数を占めていることだ。今回の結論に関して、委員会の14名が賛成し、反対したのは1人のみだった。要は、プーチン大統領がロシアのスパイを総動員してトランプ大統領の誕生に不可欠の裏工作を実行したという衝撃的な内容にほかならない。
しかも、共和党の現職上院議員が挙って承認したというからさらに驚く。ところが、民主党の全国大会開催2日目というタイミングで公開されたためか、または報告書の中身が膨大過ぎたためか、アメリカのメディアはまったく報道していないのである。
しかし、同報告書によれば、「トランプとその陣営の責任者は少なくとも140回にわたりロシアのスパイと接触し、クリントン陣営の選対本部から盗んだ資料に基づき、ヒラリー追い落としの作戦を構築した」という。その背景には、トランプが不動産やカジノ・ビジネスに邁進していた頃からロシアのマフィアとのつながりが深く、プーチンとは一蓮托生の関係にあったことが指摘されている。
問題は、現在進行中の2020年の大統領選挙においても、ロシアの介入が継続していることである。バイデン候補の息子ハンターが絡んだウクライナでの利権疑惑についても、いまだロシアによる情報操作が続いているからだ。どう見ても、民主、共和両党にとって民主的な選挙とはいいがたい。
ことほど左様に、ロシアはトランプへの肩入れを続けているのである。とはいえ、ロシア頼みでは不安ということもあり、トランプ大統領は密かに再選に向けて独自の準備も進めているようだ。得意のテレビ討論が難しいことも想定し、「オクトーバー・サプライズ」に賭けているとの観測がもっぱらである。何かといえば、11月の選挙直前の10月にアメリカ国民を味方につけるために危機を演出するという作戦である。過去の例からいえば、「戦時中の現職大統領は必ず再選を果たしている」。
そうした先例にちなみ、「パールハーバーを再現する」というわけだ。もちろん、日本がアメリカを攻撃するようなことはあり得ない。その悪役を担えるのは「北朝鮮、中国、イラン」のいずれかだろう。現時点でその可能性が最も高いのは「イラン」と目されている。アメリカのメディアはCIAや軍事筋からの情報として「イランがアメリカの空母を攻撃する準備を進めている」とし、その証拠として「アメリカの空母に見立てた木製の疑似空母へのミサイル攻撃を繰り返している模様」と称する映像を流しているからだ。
また、コロナの影響で11月の選挙では郵送による投票を認める州が増えてきており、これに猛反対しているのがトランプ大統領である。郵便投票では不正や結果判定の遅延による混乱が避けられないとの理由で、「郵便投票を違法にする」と息巻いている。それどころか、「もし郵便投票が実施されても、自分はその結果を認めない。どのような結果になってもホワイトハウスに居座る」とまで、大統領の座にこだわる執念ぶりである。
何のことはない、ホワイトハウスを去れば、韓国と同じで、お縄になるという大統領の運命が待っていると自覚しているからであろう。マンハッタンの地方検事局ではトランプ一家の脱税疑惑やドイツ銀行を巻き込んでの不正融資問題にメスを入れ、捜査も最終段階に来ている模様だ。娘婿のクシュナー氏の関与も前々から取り沙汰されており、不名誉な結末が待ち構えているに違いない。
そうした事態を回避するには、ホワイトハウスに居座り、免責特権を維持するしか生き残る道はないと思われる。「自分が再選されれば、次は娘か娘婿に大統領の座を譲れば良い」との心づもりのようだ。これでは「アメリカ・ファースト」ではなく、単なる「トランプ・ファースト」に他ならない。
いずれにしても、こんなありさまでは、アメリカの命運は尽きたといわざるを得ない。かつての世界に轟いたアメリカの威光は見る影もない。残念ながら、そんなアメリカとの同盟関係に外交や安全保障を全面的に委ねているのが今の日本政府である。安倍首相は体調不良を理由に辞任を表明したばかりだが、後任の首相にはアメリカの現実を冷静に見極め、その二の舞を踏むことのないように準備万端整えてもらいたい。かつての「世界の警察官」アメリカはもはや存在しないのである。
(文=浜田和幸/国際政治経済学者)