
第2次安倍政権は、7年8カ月という歴代最長になりその幕を閉じたが、アベノミクスの功罪とは何か。その功罪に対する評価や総括はこれから行われることになろうが、異次元緩和(量的・質的金融緩和)の象徴であった日銀のバランスシートの現状については、あまり広く認識されていない。このため、今回のコラムでは、日銀のバランスシートの現状を取り上げながら、今後の財政・金融政策の課題を述べることにしたい。
まず、日銀のバランスシートの現状だが、2013年4月から日銀は異次元緩和をスタートした。開始当初は成功したように見えたが、長期国債を年間ネットで大量に購入しているにもかかわらず,マネーストックは想定よりも伸びず、2016年頃には、数年以内での物価2%目標の達成も絶望的となった。また、日銀が購入する長期国債のボリュームが大き過ぎることから、その頃には国債市場で取引する国債が枯渇する懸念が指摘され始め、マネタリーベース目標の限界が明らかとなった。
このような状況の中、日銀は2016年1月にマイナス金利政策を導入したが、それも早々に副作用に対する懸念が高まり、同年9月下旬、量から金利を柱とする新たな金融政策の枠組み(長短金利操作付き量的・質的金融緩和)を導入し、実質的に「異次元緩和」の転換を図った。それ以降、日銀は、「こっそり」と異次元緩和の手仕舞いを進めていた。
それは、図表から読み取れる。図表は、2010年から2020年における日銀のバランスシートの資産規模やその増加幅などの推移を示したものである。異次元緩和スタート前の2012年では、日銀のバランスシートは年間で8.5兆円しか膨張していなかったが、異次元緩和スタート後の2013年では年間で55.7兆円も膨張している。その後、日銀バランスシートの膨張は加速していき、ピークとなったのは政策転換を行った2016年で、その時のバランスシートは91.5兆円も膨張している。
しかしながら、政策転換を行った直後の2017年のバランスシートの膨張は58.6兆円になり、2019年は21.8兆円にまで縮小していた。これは、「こっそり」と異次元緩和の手仕舞いを進めていたことを意味する。
この結果、日銀のバランスシートの膨張は緩やかになりつつあった。実際、日銀のバランスシートは、資産(対GDP)で2013年の30.3%から、2018年には100.5%に急膨張したものの、2019年は103.6%であり、このまま、異次元緩和の手仕舞いを進めていけば、日銀のバランスシートは対GDP比で安定化できる可能性があった。これはデータから読み取れる確かな事実であり、日銀内部でも、対GDPの資産規模を概ね100%で収束させることができると考えていたのではないか。