「株式市場はコロナウイルス&マスコミの連合軍に寄り切り勝ち」。8月中旬に旧知の70代の個人投資家から頂いたメールの一部である。表現はともかくも、これは数多くの関係者の偽らざる思いかもしれない。
今年に入り、新型コロナウイルスの世界的な感染拡大による、新手の脅威に動揺した株式市場は一時大荒れになった。2月後半から下げ足を早め、3月には9日、16日と玉突き式の暴落(それぞれ日経平均株価終値で前日比5%超の下落)に襲われ、平均株価は1万6000円台まで下落した。この頃、担当大臣はもとより、マスコミ、そして専門家の大多数は「リーマンショックを凌ぐ恐慌の到来」を声高に叫んだものである。
しかし市場の波乱はそこまでだった。周知の通り、その後の展開は、先述した面々の悲壮感に満ちた言動、コメントを嘲笑うかのような推移である。平均株価は翌月の末には、アベノミクス景気での定位置であった2万円台を回復。その後も株価は尻上がりで推移して、7月にはコロナ暴落前の平均的な水準である2万2000円台まで戻してしまった。世界経済の破局を信じて、乾坤一擲の売りに走ったものは、飛んで火にいる夏の虫になってしまったのだろう。「波乱相場を好む複数のデイトレーダーが見込みを誤り、大損をした」(証券関係者)との話も聞く。
このところ、暴虎馮河の傾向がある個人投資家からの音信がない。いずれにしてもコロナウイルスの一件は、株式市場が不況はもとより、戦争、大災害、テロ等々、ありとあらゆる禍々しい事象を、結局は飲み込んで消化してしまう、巨大な胃袋であることを、改めて証明したことになるのだろう。
さて、気になるのはこれから、今秋以降の展開であろう。市場では強弱感は対立しており、晩夏の時点では楽観派がやや多いように思われるが、果たしてどちらに転ぶのだろうか。
ここは現時点の株式の支援材料や、懸念要因を俎上にあげるのではなく、3月に筆者が当サイトに寄稿した記事『新型コロナ、株相場はリーマンショック級どころか標準的な値下がり』で一定の成果をあげた、過去の株価の動きを愚直に追う分析を用いて、予測を試みてみたい。
今年の最高値更新の可能性は低い?
日本経済の低成長が常態化したバブル崩壊以降、1991年から2020年8月末までの平均株価の年間変動率は38%になる。年間の最高値から最安値の振れ幅はほぼ4割になるわけだ。2020年は8月末時点で変動率は45%になり、すでに平均値を上回っている。もちろん変動率は年によって大きな差はあり、1割台に留まることもあれば、5割を超えることもある。
ただリーマンショックがあった2008年の105%や、バブル崩壊が本格化した1992年の66%を除くすべての年は、いずれも5割前後に収まっている。過去のパターンから見て、今年の最高値である2万4083円を年内に大きく上回る可能性は低いといえそうだ。
また平均的な変動率を上回った年の翌年は、変動率は急激に縮小することが多い。荒れ場の後に凪が来るのは市場が備えている生来の習性ではあるが、来年は少なくとも、今年よりは地味な、言い換えれば膠着感の強い展開になる公算が高いと考えられる。
さらに来年に向けて鍵になりそうであるのは、年末までの株価の推移であろう。年間最高値に届かない場合はもちろんのこと、仮に年間最高値を更新したとしても、2万4000円台ソコソコに留まるのならば、先行きへの不安は大きくなる。テクニカル分析で言われる「三山(さんざん)」(三度高値を形成して、その上値を抜けられない形状)になり、強気相場の終焉、調整局面入りを示唆することになるからだ。
(文=島野清志/評論家)