株式相場が活況です。アメリカのNYダウ平均株価は、新型コロナウイルスによる下落前の水準を超え、史上最高値を更新しています。日本の株式相場も同様で、日経平均株価は29年ぶりの高値を付けました。報道では、新型コロナワクチンの実用化への期待が高まったことを材料に買われたということです。「株価は景気の先を読む」といわれますが、コロナの収束はもう時間の問題なのでしょうか。
結局、理由はなんでもあり
アメリカの大統領選挙ではジョー・バイデン氏が勝利しましたが、今年の夏ぐらいまでは「トランプ勝利=株高、バイデン勝利=株安」と見られていました。コロナ対策よりも経済活動を優先するドナルド・トランプ大統領に対して、バイデン氏はコロナ対策を重視し、さらに企業や富裕層への増税を公約としていたためです。
ところが、世論調査でバイデン氏がリードしたまま選挙が近づくと、バイデン勝利で株価は上がるとの見方に変わってきました。バイデン氏が勝つと公共投資が増えるからというのがその理由です。とはいっても、トランプ勝利の場合に株価が下がるわけではなく、「トランプ勝利=株高、バイデン勝利=株高」だというのです。どっちに転んでも株価は上がるというわけで、その“理由”は取って付けたようなものです。
結局、「上がる理由はなんでもあり」の状態ですが、相場に勢いがついてしまうとこうなります。株価の上昇が続いているときに、株式相場にとって良い材料が出ると上昇にさらに弾みが付きますが、悪い材料が出ても上昇が続くことは少なくありません。「悪材料が出尽くした」とされて、また買われるのです。相場が悪く下落が続いているときは逆で、悪材料はもちろん、好材料が出ても「好材料出尽くし」と売りの要因になってしまいます。
新型コロナの感染がヨーロッパやアメリカで広がった今年の2月から、アメリカを中心として世界の株式市場は暴落しました。各国で外出が制限され、4-6月期の実質GDP成長率はアメリカが▲31.4%、日本は▲27.8%(いずれも前期比年率換算)となりましたが、2月からの大幅な下落はこれを先取りしたものです。
そして、3月後半からは急回復となりました。外出制限が徐々に緩和され、7-9月期の実質GDP成長率はアメリカが33.1%、日本は21.4%(いずれも同上)となりましたが、それを見込んだ動きをしたわけです。
もっとも7-9月の数値が大きいのは、前年比ではなく、前期比を年率に換算したためで、景気が良いとはとてもいえない状況であるのは、誰もが実感するとおりです。株価が上昇に転じるのはともかく、史上最高値や29年ぶりの高値は、実際の経済状況とはかけ離れているのではないでしょうか。
各国の中央銀行による空前の金融緩和による資金が、株式市場に流れ込んできたことによる影響が大きいと思われます。お金の流れに勢いが付くと、そのこと自体が勢いを加速するように作用します。取って付けたような理由は、その流れを正当化しようとするものでしかありません。
コロナの収束はまだ見通せない
ワクチンの開発に成功したと製薬会社から発表されましたので、そう遠くないうちに新型コロナは収束するという期待が膨らみます。一方、秋の深まりとともにヨーロッパやアメリカ、そして日本でも感染者数は増加しており、再び経済活動が落ち込む不安もあります。
どちらが正しいかという問題ではなく、株式相場が好調なときには、不安材料には目をつむり、期待ばかり目が向いてしまう傾向があることに注意が必要です(相場が悪いときは逆です)。エコノミストや経済評論家までもが新型コロナの感染見通しについてコメントをしているのを見かけます。感染症の専門家ですら見解が異なるぐらいですから、経済の専門家のコメントは素人判断にすぎません。今後の新型コロナの感染状況とそれによる経済への影響は「わからない」とするのが、正しい見方ではないでしょうか。
では、資産運用をする上で、株式相場の投資判断はどのように考えたらよいでしょうか。まず、わからないことについては素人判断をせず、両方の可能性を考えておく必要があります。ワクチンの実用化で新型コロナが収束し、比較的早くに景気が回復する可能性もあれば、感染拡大が続き、外出規制で景気が再び悪化する可能性も考慮しておく必要があります。
一方、わかっている、あるいは確度が高い見通しもあります。新型コロナが収束しても、生活様式や仕事のスタイルの変化が続くであろうということです。インターネットによる商品の購入やリモートワークの導入は、新型コロナによって加速しましたが、それ以前からいずれは普及していくことは予想されていました。新型コロナの収束が早期であっても、この流れが逆に向かうことは考えにくいでしょう。確度が高い見通しに基づいた投資判断であれば、目先の動きに振り回されず、長期の資産形成に寄与するのではないでしょうか。
(文=村井英一/家計の診断・相談室、ファイナンシャル・プランナー)