「掉尾の一振」と呼ぶにはひと月早い11月、東京株式市場は急騰した。月初めより8営業日連続の上昇の後、1日を置いて、再び上伸。半年近く続いた膠着局面を脱して、日経平均株価は2万6000円台に駆け上り、バブル後の最高値を更新している。
「手仕舞いが早かった」と舌打ちをするのは、投資歴40余年のベテラン個人投資家である。「暮れに向けていったん調整すると考えた。それにしても強すぎる」。ため息交じりになるのも無理はない。前任者に比べて穏健な米国新大統領の誕生、新型コロナウイルスに対応するワクチンの開発進捗など、株価の支援材料は報じられたものの、このタイミングで、ここまで棒上げすると予想した投資家や市場関係者は、少ないのではないか。
折から、海外のみならず国内でもコロナウイルスの感染者はじわじわと増加、個人消費促進の即効薬として実施されたGoToキャンペーンの見直しも行われている。すでに観光、飲食関連業種を中心に倒産、廃業も急増、伴って雇用情勢も急激に悪化と懸念要因は数多い。一般の皮膚感覚と乖離した株式市場の動向を、識者の中には明らかに異様、さらにはバブルと断じる向きもある。確かに物事すべてが、市場の都合通りに進むことを想定する、理想買いの印象は否めないところだ。
ただ、株式市場は理外の理がまかり通るところであり、過去の数々の事例からも明らかなように、ときに説明がつかないような水準まで上昇、下落する習性を持つから、先行きを読むのはひときわ難しい。
インフレの前触れ?
テクニカル面から見ても、11月の株価急騰は、実態無視のはしゃぎ過ぎとは決め付けられない面がある。何より上昇の内容が特異であるからだ。
まず8営業日の続伸。日銀のETF購入によって、堅調に推移してきたこの数年の市場を見ても、平均株価が8営業日を超えて連騰したのは、今回を含めて6回しかない。古い順にあげてみると、2015年5月(12営業日続伸・同月21日から6月1日)、2016年12月(9営業日続伸・同月6日から16日)、2017年10月(16営業日続伸・同月2日から24日)、2018年8月(8営業日続伸・同月21日ら30日)、2019年9月(10営業日続伸・同月3日から17日)、そして今回。ちなみに2017年の16日は現時点で最多日数のレコードになっている。
際立っているのは、今回の上昇率の大きさである。前5回の続伸期間の上昇率は3%から7%に留まっているのに対して、今回は8営業日で11%も上昇している。支援材料の曖昧さはともかく、地合いはかつてないほど強いといわざるを得ないわけだ。
急伸の後に反動安が起こるのが指標の値動きでよく見られるパターンであるが、長く続伸した場合は、そうともいえない。過去5回のその後3カ月の平均株価の推移を見ると、下落するどころか、むしろ堅調な推移を示している場合は多く、さらに台替わりをして上値を追っていったケースもある。
ベテラン投資家でも解を見いだしづらい現在の株式市場だが、興味深い見方はある。「最近の上昇は(近い将来の)インフレを見越しているのではないか」(証券記者OB)というものだ。一部シンクタンクの投資レポートでも、その可能性は触れられているが、主要各国はコロナへの対応に追われて、巨額の資金供給を行っており、インフレの土壌になる過剰流動性の状況にある。
長い経済の停滞によって、昨今はほとんど死語と化しているインフレだが、忘れた頃にやって来るのは天災ばかりではあるまい。もっともこのシナリオは、投資家や株主には朗報であっても、投資と縁のない圧倒的多数の生活者にとっては、迷惑なものだろう。
(文=島野清志/評論家)