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小林敦志「自動車大激変!」

新車販売の“トヨタ1強”は今年も続くのか?「今、買うならトヨタ車」となる消費者心理

文=小林敦志/フリー編集記者
新車販売のトヨタ1強は今年も続くのか?「今、買うならトヨタ車」となる消費者心理の画像1
トヨタのロゴ(「gettyimages」より)

 前編の最後で、今の“トヨタ1強”はトヨタ自動車が“仕掛けた”結果だけとは言い切れない部分もあると述べた。

 まずは、新型コロナウイルス感染拡大の収束が見えず、本稿執筆中はますます混迷を深めようとしており、非常事態といっても過言ではない状況が続いていることは否定できないだろう。そして、世界的な戦争や経済恐慌などの非常事態が起こると、現金などを“金”に変えようとする動きが目立ち、金相場が上昇するというのはよくあること。

 今回のトヨタ車販売の好調も、「先の見えない時期に新車を買うのだから、より確かなブランドのクルマを買おう」という消費者サイドの動きが大きく影響しているといっていいだろう。

 ちなみに、新型コロナ感染拡大下であっても、新車は好調に売れている(中古車はもっと調子が良い)。これは、鉄道やバスなどの公共交通機関を利用しての外出を極力抑えたいというニーズのほか、海外旅行どころか国内旅行もままならず、レストランは夜8時に閉まってしまう(本稿執筆中は1都2府8県に緊急事態宣言が発出中)地域があったりして、外食もままならない中、株などへの投資で利益を上げている富裕層が積極的に新車へ乗り替えていたり、新型コロナによる雇用不安のない公務員や、年金で暮らしている富裕高齢層が新車へ乗り替えているという背景がある。

「今時は残価設定ローンのご利用が多いだけでなく、すでに何回か利用されているお客様も目立ちますので、新車購入時に“リセールバリュー”を意識されるお客様が目立ちますね」とは現役セールスマン。

 リセールバリューが高ければ残価設定ローンにおける残価率も高めとなり、最終回分として据え置かれる額も多めとなるので、月々の支払い負担が軽くなるのだが、それだけではない。

 前出のセールスマンは「特に売る側としては、残価設定ローンを組んでいただいても、完済を待たずに新車へのお乗り替えをおすすめするのが、どのブランドのセールスマンでも半ば当たり前となっております。多くの車種で設定される残価率は、現状ではやや抑えめな“安全圏”のものとなっているため、中古車で人気が高ければ、支払い途中のある時期に下取り査定を行い、査定額で残債整理すると、ケースによっては“お釣り”が残ることもあるのです」と話してくれた。

 新型コロナの感染拡大が収束しても、「有事に備え、まとまった現金は手元に置いておきたい」という傾向は強まるだろうから、ローンの利用が減ることはないとされており、残価設定ローンが新車購入ではメインとなっていくと、販売現場では見ている。そのため、新車購入において“リセールバリューの高さ”が重視される傾向も続くとされている。

 新車販売が2020年春先の極端な落ち込みから短期間で回復基調へ向かったのも、下取りや買い取り相場が、中古車が良く売れることにより高め、つまりリセールバリューが全般的に高めに、今もなお推移していることで、新車が売りやすい傾向が続いていることも大きく影響しているのである。

 ここ数年、海外に中古車を輸出する外国人バイヤーが中古車相場を大きく動かす傾向が目立っていた。彼らはトヨタ、日産自動車、ホンダに的を絞り、ミニバンやSUV、セダンなどの相場形成で特に大きな影響力を持っていた。その中でも、トヨタ車は海外での中古車人気が高い。当然海外バイヤーの間でもトヨタの人気は高いので、当然トヨタ以外のメーカー系ディーラーにトヨタ車を下取りに出しても、査定額は高値になりやすい。

 また、トヨタ以外のメーカー車であっても、自社系オークションネットワークなどの再販ルートが充実しているので、トヨタ系ディーラーの査定額が一番良かったということも珍しくない。そのため、「それなら次はトヨタで」となりやすいのである。

 小売りに限って言えば、新型コロナ感染拡大が収まらない中でも、新車販売は意外なほど好調となっている。ただ、政府や地方自治体から外出自粛の“お願い”などもあるので、店頭で待っていてもお客がやってくることは少ない。なかなか“難しい”状況の中、新車をよく売るセールスマンを見ていると、コロナ禍であっても「今が買い時ですよ」などと気軽に案内できる“馴染み客”が多い。そのような“顔をつなぐ”商売を重視してきたセールスマンは、トヨタ系ディーラーで多く見かけることができ、いずれもコロナ禍前と同じか、それを上回る販売実績を挙げている。

 つまり、“新車が良く売れている”といっても、すべてのディーラーやセールスマンが好調なのではなく、ある意味“二極化”が進んでいるのである。

軽自動車を重視しないトヨタの強み

 さらに、トヨタの最大の強みは、軽自動車販売を重視していないところにある。ダイハツ工業からのOEMで「ピクシス」ブランドは持っているが、これは既納ユーザーの「増車で軽自動車が欲しい」というニーズに対応するために用意しているだけで、メインにはしていない。また、セールスマンは軽自動車の方が売りやすいので、放っておくと軽自動車ばかり売ることにもなりかねないが、そこはディーラーで厳しく管理していると聞いている。

 軽自動車は薄利多売なだけでなく、購入したディーラーで定期点検や車検を受けずに格安車検業者などへ流れるケースも多いので、販売現場ではなかなか利益に結びつかないのである。また、軽自動車に乗り続ける人が多く、前回述べたような「少し足すとアルファードに乗れるなら」といった購入車種のステップアップも望みにくい。さらに、同じディーラーで乗り続けてもらうこともあまり期待できない。

 現状では、日本国内における新車の保有年数は全体的に長期化傾向にある。車齢13年超で自動車税がアップしたり、致命的な故障などが起きたりしない限りは乗り替えない人が多いとされるが、逆に初回、せいぜい2回目の車検までの短期間に乗り替える人も目立ってきており、二極化している。これは、残価設定ローンの普及が大きいとされている。そして、残価設定ローンを魅力あるものにするには、自社車両のリセールバリューを高める必要がある。さらに、効率よく利益を出すには、より高収益が期待できる高額車両を売った方がいいのは当たり前。

 新型コロナの感染拡大が続く中、トヨタは全店併売化を行った。当初は“非常事態ともいえるタイミングの中、大丈夫なのか?”といった声もあったが、先行きが不安視された新車販売も、5月下旬に1回目の緊急事態宣言が全面解除されると急速な回復を見せた。

 このような消費行動をトヨタがどこまで予測できていたかは定かでないが、“より確かなブランドを選びたい”という平時とは異なる消費者のニーズを漏らすことなく、かなりの確率で販売実績に結びつけることができたのは間違いないだろう。

(文=小林敦志/フリー編集記者)

小林敦志/フリー編集記者

小林敦志/フリー編集記者

1967年北海道生まれ。新車ディーラーのセールスマンを社会人スタートとし、その後新車購入情報誌編集長などを経て2011年よりフリーとなる。

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