
「日本と韓国は米国のために自国の利益を犠牲にしてはならない」
このように主張するのは、中国国営メディア「環球時報」の3月16日付記事である。米国のブリンケン国務長官とオースティン国防長官が日本と韓国を相次いで訪問し「同盟関係」を誇示する姿勢に中国当局が警戒感を募らせるなか、中国国営メディアが日米韓の足並みを攪乱させる動きに出始めている。中国と尖閣諸島や黄海周辺で軍事的な緊張を高めている日本と韓国に対して「中国との経済的メリットをないがしろにしてはならない」と強調しているのである。
米国では中国に対する不満が急速に高まっている。米ピュー・リサーチ・センターが2月上旬に実施した米国内での世論調査によれば、70%が「中国との経済関係が悪化しても、中国における人権を促進すべきである」と回答した。米国民は中国に対して経済よりも人権問題を重視しており、党派色が強まっている連邦議会でも同様である。
ブリンケン国務長官は就任時のビデオメッセージで、ナチスによるホロコーストの生存者である義父を紹介したように、人権問題に対して強い信念を持っているといわれている。しかし前述の世論調査では、「中国への対処」に関して肯定的に回答したのは53%にとどまっており、新政権の対中国外交の期待値がそれほど高くないことを示唆している。
新疆ウイグル自治区で「ジェノサイド」が行われているとする米国の主張に対し、中国外務省の報道官は10日、「我々は過去40年でウイグル族の人口を555万人から1200万人へと2倍以上に増加させたが、米国はインディアンの人口を1492年の500万人から20世紀初めには25万人へと95%も急減させた」と反発した。
このように、中国に対して「人権が最も重要」とのメッセージを送るだけでは、中国に行動変容を起こさせることは困難である。米通商代表部(USTR)は1日に発表した通商政策の年次報告書で、「新疆ウイグル自治区での強制労働への対処が最優先課題の一つになる」ことを明らかにしたが、バイデン政権は今後、中国に人権重視の行動を執らせるために制裁に踏み切り、日本に対しても協力を求めてくる可能性がある。そのとき日本は、経済よりも人権をはじめとする安全保障問題を優先できるのだろうか。
人口減と負債増大
中国は3月上旬、第14次5カ年計画を発表した。「双循環(外需と内需を組み合わせる)」という新しい概念が盛り込まれ、「2035年までに1人当たりのGDPを中等先進国並みに引き上げる」との長期目標が掲げられた。各国のシンクタンクがこのところ「2030年頃に米中の経済規模が逆転し、中国が世界最大の経済大国になる」との予測を出しており、日本でも「既に日本の対中貿易は対米貿易を上回っており、中国と距離が近い日本はいやおうなく中国経済圏に引きずり込まれていくだろう」との論調が出てきている(3月16日付ニューズウィーク)。